裏世界ピクニック1 ふたりの怪異探検ファイル – 宮澤伊織

「知ってる? 共犯者って、この世で最も親密な関係なんだって」

「ネット怪談×異世界探険」と題したSFサバイバルホラーだが、異世界を探検する女性コンビの百合描写にも力が入っている。コミュ障人見知り主人公の空魚(そらを)が相棒の鳥子へ送る湿度の高い視線、依存・執着を一人称でじっくり書くのが素晴らしい。根暗はやっぱりこうでなくっちゃ!

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仁科鳥子と出逢ったのは〈裏側〉で〝あれ"を目にして死にかけていたときだった――その日を境に、くたびれた女子大生・紙越空魚の人生は一変する。「くねくね」や「八尺様」など実話怪談として語られる危険な存在が出現する、この現実と隣合わせで謎だらけの裏世界。研究とお金稼ぎ、そして大切な人を探すため、鳥子と空魚は非日常へと足を踏み入れる――気鋭のエンタメSF作家が贈る、女子ふたり怪異探検サバイバル! - Hayakawa Online

早川書房ブログの記事「百合が俺を人間にしてくれた――宮澤伊織インタビュー」が、並々ならぬ百合への熱意で界隈外にまでバズった宮澤伊織先生の百合SF小説。

本作は「裏世界」と呼称される異世界でネットロアに由来した脅威に遭遇するサバイバルホラー作品で、タイトルは、旧ソ連のSF作家ストルガツキー兄弟の「路傍のピクニック」(現在は「ストーカー」のタイトルで発売されているが)が元ネタになっていると思われる。あと内容的には、同人STGの東方を知っている人からするとまんま「秘封倶楽部(参考リンク:ニコニコ大百科)」なんだそうな。

巻末で「この内容は2ちゃんねる○○スレッドの何番のレスが~」とか書いてあるの初めて見た。人によっては馬鹿馬鹿しいと感じるかも知れないが、不特定多数の人間が関わっている草の根活動は立派に……というかド直球で「文化」だからね。思ったより凄いしっかり検証してるんだよな。

ま、そんな事書いたけど百合厨からすると空魚(そらを)の鳥子に対するジメっとした感情描写が本作最大の注目点だ。空魚はもう百合的に理想的なコミュ障人見知り女で、裏世界で偶然会った鳥子に内心色々言いつつも、2話くらいからもう「ふ~ん冴月さんですか。ふ~ん」みたいな態度に出る始末。

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友達いない奴ってさぁ、仲良い奴が出来ると友情・愛情・家族愛みたいなの全部1人に全載せ、同じ籠に卵全部載っけて籠が揺れたら大騒ぎでホントひっでぇよなぁ!本文中に眼鏡掛けてる描写一回も無いのにキャラデザで眼鏡女子にされるのも頷けるぜ!(←偏見)

また鳥子も対照的にネアカというか、根暗キャラの気持ちにてんで無自覚で意識せずに煽りまくるから吹く。冴月、冴月って言うたびに湿度上がるのなんとかしてくれ!

──私は弱くなった。 鳥子と出逢ってまだほんの少ししか経ってないのに、私は鳥子がいないとだめになってしまっていた。私に少しだけ境遇は似てるけど、ほかは全然似てないあの女。私にないものをいっぱい持ってるくせに、私より何かが足りない女。綺麗で、性格がよくて、強くて、私とは全然違うタイプなのに、なぜか馬が合うあの女。澄ました顔で無神経なことを言う、私のことを何一つわかってない、あの女。

そんな女が私の人生に突然現れて、引っかき回して、勝手にいなくなったのだ。考えれば考えるほど、どんどん腹が立ってきた。

長い引用で申し訳ないけど、これ読んだとき「あ"あ"~っ」ってなった。こんなんだから小桜に「コミュ障サブカルオタクに見せかけて依存性サイコパスだったとか、勘弁してくれ」って言われるんだよ。やっぱ執着って最高……。まだ会ってから1~2ヶ月くらいしか経ってないと思うんだけど、この時点でこんなんならこの先どうなっちゃうの?

早川書房のSFマガジン連載なのでこの巻では終わらず、まだまだ先に続く。聞くところによるとキャラが増えて人間関係がどんどん熟れて行くらしいが果たして……?

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