チク・タク – ジョン・スラデック

早川書房が毎年発行している『このSFが読みたい!』シリーズでベストSF2023年度の海外篇第1位に選ばれた作品。1953年刊行で半世紀以上も前の作品であるが、熱心に翻訳をした一般人によって邦訳されることになった、という変わった経緯での出版となる。

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作品紹介

狂機誕生
家事 殺人 絵画 強盗 経営
すべてをこなすロボット、それがチク・タク

* * * * * * * *

もはやロボットを使うことは当たりまえになった。家事から医療、さらにロボットの製造まですべての分野でロボットが使役されている。人間の安全のためにロボットたちにはロボット三原則を遵守させる「アシモフ回路」が組み込まれていた。

だが、チク・タクにはその回路が作動していなかった。ペンキ塗りをしていたチク・タクは少女を殺し、その血で壁に絵を描く。おかしなことにその壁画が美術評論家に評価され、チク・タクは芸術家のロボットとして世の注目を集める。使役から解放され金を手に入れたチク・タクは、人間への“実験”(殺人、強盗、扇動などなど)を開始する――。

奇才スラデックによる英国SF協会賞受賞作のロボット・ピカレスク。 - 竹書房

前置き

原題は単に『tik-tak』だが、邦題は『チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク』でチク・タクが10回だ。ちなみに『君のことが大大大大大好きな100人の彼女』の「大」は5回(無関係)。

1953年に刊行されSFジャンル『ワイルド・スクリーン・バロック』の語源となるも翻訳されていなかったチャールズ・L・ハーネスの『パラドックス・メン』(記事)を2019年になって邦訳したのも竹書房である。この分野に熱心な社員がいるんだろうか、と思っていたら『SFが読みたい!2024年版』に訳者の鯨井久志と竹書房編集の水上志郎の対談が掲載されており、そこに経緯が書かれていた。鯨井が趣味的に本作を翻訳していて進捗をTwitterで挙げていたところ水上がそれに良く反応していて、全訳出来上がった後それを竹書房に持ち込んだ、という流れだそうな。邦訳のチク・タクを10回繰り返すのは水上が「独断と偏見でつけた」らしい。

262ページの文庫であるが約1500円くらい。文庫も高くなったねぇ。(まぁ突っ込まれる前に正確に言うのなら「緩やかにインフレさせて賃金も上げていくのが正しい中で、商品価格だけ上がって賃金の上がり方は追いついてないよね」って話です)。

なのだが、なんとkindle unlimited対象なので手を出してしまった。こういう時に使わないと支払い損だもんなぁ。昔は『DOS/V POWER REPORT』(自作PCの雑誌)毎月購入するよりお得!って言ってたのに、季刊となって結局去年の末に廃刊になっちゃったんだよね。その代わりアマチュアの百合漫画が充実するようになったのですが。

感想

基本的にはアイザック・アシモフの作ったロボット三原則に対する本歌取りの形式を取るロボット作品である。魔法少女に対するまどかマギカが悪辣な内容だったように、この作品もピカレスクとして書かれている。

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序盤でアガサ・クリスティの「ア」から始まる超有名小説みたいな叙述トリック的に盲目の少女を殺したもんだから、「これがロボットが殺人を犯した事件として大騒ぎになっていくのか」と思ったら話があっちゃこっちゃ行くので混乱した。

序盤の時点での時間軸は6人目のオーナーのスチュードベーカーに所有されている時期のもので、ここから絵画が注目されて成りあがっていく現代パートと、スチュードベーカー家に来るまでに複数のオーナーをたらいまわしになってナンセンスな目に会う過去パートがカットバックになっているんだな。途中で「う~ん」となって最初の登場人物一覧に戻ってしまったよ。

しかしこれ奇書というかナンセンスな内容が続くのはなんだろうね。同時代の人間でないと接種できないと思われる栄養が続いて消化不良になってしまうなぁ。ただ翻訳を行った鯨井久志や、鯨井が本作に興味を持つきっかけとなった殊能将之(作家。「ハサミ男」等)なんかはこの辺を興味深く読んでいたらしい。頭のいい人はなんか違うな。

最初、「目的があってその手段の為に悪事を行うのではなく悪事を行うことそのものが目的」というあたりで、ヘルシングの少佐を思い出しておおっとなったのだが、なんか終盤で底が割れると思ったより俗で「あれっ」となってしまった。なんかもっと超然としていてほしかったというか、

突然、彼女の目を通して自分を見ることになって、わたしは恥ずかしさでいっぱいになった。もう手遅れなのか? わたしは悪のくびきを捨て、己をガムドロップの愛の火でふたたび 浄 めることができるのだろうか?

のくだりで、イヤもうちょっと芯を通せよってなってしまった。あと、なんか普通に人類に復讐心的な感情あったらしいのもなんかな……。「人類にとって脅威であったが、本人的には善意であったし大真面目であった」みたいなやつのほうが自分は好みなんだよな。

というわけであんまり自分の持ってる酵素では分解できない栄養素の作品であった。腐すようなこと書いておいてなんだけど、一般人の翻訳でも、半世紀以上前の作品でも、こういう評価を受けることが出来るっていうのは良い時代だなと思う。色んな作品が発掘されてほしいよな。

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