「ピクニックだよ。こんなふうに想像してみたまえ──森、田舎道、草っ原。車が田舎道から草っ原へ走り下りる。車から若い男女が降りてきて、酒瓶や食料の入った 籠、トランジスタラジオ、カメラを車からおろす……テントが張られ、キャンプファイアが赤々と燃え、音楽が流れる。だが朝がくると去っていく。一晩中まんじりともせず恐怖で 戦きながら目の前で起こっていることを眺めていた獣や鳥や昆虫たちが隠れ家から這いだしてくる。で、そこで何を見るだろう? 草の上にオイルが溜まり、ガソリンがこぼれている。役にたたなくなった点火プラグやオイルフィルタが放り投げてある。(中略)」
「わかりますよ。道端のキャンプですね」
「まさにそのとおりだ。どこか宇宙の道端でやるキャンプ、 路傍のピクニック というわけだ。きみは、連中が戻ってくるかどうか知りたがっている」
1972年発表のロシア発SF小説。原題の訳は英語では「Roadside Picnic」、日本語では「路傍のピクニック」だが、アンドレイ・タルコフスキーの1979年の映画タイトルに基づいて邦題は「ストーカー」となっている。
ファーストコンタクトテーマの古典的名作であり、人気オープンワールドゲーム「S.T.A.L.K.E.R.」や、アニメ化もした小説「裏世界ピクニック」(記事)等の元ネタとなった。
続きを読む アルカジイ&ボリス・ストルガツキイ『ストーカー』 →
1948年発行。SF小説界の古典的名作という位置づけの作品であるが、今読むと色々なことが唐突で目が滑るストーリーテリングになかなか参ってしまう。非常に読みづらいのでちょっと戻って再読が多発するので結局テンポ良くないし、これは翻訳でも良くなりようが無いよなぁ……。
続きを読む 非(ナル)Aの世界 – A・E・ヴァン・ヴォークト →
知る人ぞ知るといった評価の作家ルーシャス・シェパードの連作短編シリーズの第1巻となる。魔法によって動くことが叶わなくなり、その体がある種の自然環境となった巨竜グリオールを取り巻く人間模様が書かれている。ドラゴンという「ファンタジー作品の定番」は幻想的な話を想起させるが、本作に書かれた物語はそれを裏切るように泥臭い。
この記事を挙げた現在ではkindle unlimitedの対象であるので、本サービス利用者は手に取りやすい作品と言える。
続きを読む ルーシャス・シェパード『竜のグリオールに絵を描いた男』 →
「俺たちはあまりに善人だ。すぐに『好きなアニメがつくれるだけでも』って考えてしまう羊だよ。もちろん、俺はそんなアニメ人が嫌いじゃない。でも、誰かが羊飼いにならなきゃ、日本アニメは地盤沈下していく」
「で、おまえがその羊飼いの大役を担うって?」(p248)
2020年発行。アニメ制作を題材としたポリティカル・フィクション。
著者は元々アニメにはまったく興味のない人で、本書の調査で初めて本格的にアニメを見始めたらしい。実在の未解決事件を小説化し映画にもなった「罪の声」が代表となる社会派作家なのだが、ここからなんでアニメの作り手側を題材にした作品を作ろうとしたのか興味深い。 続きを読む 塩田武士『デルタの羊』 →
2014年発行。聖書の小説化としてはウォルター・ワンゲリンの小説聖書が有名だが、本書は聖書ではなくキリスト教史を「ヤクザの抗争史」と見立てて小説化した歴史小説的な内容である。
続きを読む 架神恭介『仁義なきキリスト教史』 →
2019年発行。クトゥルー神話で知られるH・P・ラヴクラフトの代表的作品7作を収録している。ラヴクラフト作品の邦訳は大体古くなっているので、最新の翻訳で読めるのも魅力的だ。
続きを読む H・P・ラヴクラフト『インスマスの影 クトゥルー神話傑作選』 →
「わたしはアム」で「あなたはアー」
1966年発行の長編SF小説で、1967年の第2回ネビュラ長編小説賞を『アルジャーノンに花束を』と共に受賞している。
プログラム言語「Ruby」の開発者まつもとゆきひろ氏は、本作を通じてプログラミングに興味を持ったらしい。
高校生のときに読んだ『バベル-17』(サミュエル・R・ディレーニイ著、ハヤカワ文庫)というSF小説が面白くて、プログラミング言語に興味を持ちました。「バベル-17」は、宇宙戦争における敵陣営の暗号の名前です。主人公の言語学者が暗号解読に取り組み、それが暗号ではなく言語だということに気づいて、敵陣営の攻略法を解明していくストーリーです。 - 日経プラス
続きを読む サミュエル・R・ディレイニー『バベル-17』 →
ファンタジー作家タニス・リーの中編2編で構成された書籍で、表題作の『冬物語』の主人公オアイーヴは、ゲーム『ロマンシングサガ2』に登場するオアイーブの元ネタとされている。
それでリメイク作品の『ロマンシングサガ2 リベンジオブセブン』の発売をきっかけに読んでみたのだが、あくまで名前をオマージュしていると言うだけで各要素は特に似通っていない気がする。後述するが、河津秋敏によると特定のキャラクターというより「タニス・リー作品自体がロマンシングサガ全体のモチーフになっている」という感じらしい。
続きを読む タニス・リー『冬物語』 →
早川書房が毎年発行している『このSFが読みたい!』シリーズでベストSF2023年度の海外篇第1位に選ばれた作品。1953年刊行で半世紀以上も前の作品であるが、熱心に翻訳をした一般人によって邦訳されることになった、という変わった経緯での出版となる。
続きを読む ジョン・スラデック『チク・タク 』 →
2021年発表。第11回アガサ・クリスティー賞受賞、2022年本屋大賞受賞作品。『第二次世界大戦下のソ連において女性のみで構成された狙撃部隊』という魅力的ながら難しい題材を見事に書き上げている。
続きを読む 逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』 →
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