2020年6月~11月にかけてTwitter上で盛大にバズった、同人誌を巡る女性の悲喜交々エピソード漫画が書籍化。同人に関わる読者を悶絶させる切り口のエピソードもさることながら、今後の同人界で共有されるであろう「おけけパワー中島(おけパ中島)」という概念を産みだしたことで一つのマイルストーンと言える作品である。
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憧憬、羨望、執着、嫉妬、愛…同人活動をする者達のほぼ全てがここにある
類まれなる文章力で二次創作界に燦然と輝く天才字書き・綾城(あやしろ)。同ジャンルの者達はその作品に焦がれ、打ちひしがれ、彼女に馴れ馴れしくリプを飛ばす「おけけパワー中島」への憎悪をくすぶらせていくのであった……。
天才字書きをめぐる創作者たちの葛藤を綴った連作。
書籍描きおろしとして、綾城が小説を書き始めた頃を描いた「天才字書きの生まれた日」を収録。綾城と中島が出会ったばかりの時期が明かされます。 - KADOKAWA
更新される度にTwitterのタイムライン上を騒がせていたので情報に疎い自分でも知っていた。いやぁ面白い。私自身は男性だし同人文化に参加していないので知ったようなことは言えないのだが、この内容が共感される文化って熱があって良いなぁ。(アニメ・漫画を対象にした)「同人」という文化はそもそもは女性が始めたものだ、というのも頷ける。
同ジャンルの人にも頷いてもらえないかも知れないが、百合厨の私から見ると嫉妬・執着その他のクソデカ感情がこれでもかとばかりに登場する、ある種の百合作品である。登場人物同士の絡み自体が実はあまりないし作中の大半は一人相撲だけど、広義の百合として成立するんだよなぁ。でも4話(前人未踏の0件ジャンル)の主人公と幼馴染は普通に百合だと思う。主人公がクワッ!とばかりに激情を見せてもフラットに受け止めてくれる幼馴染さん、めっちゃ優しいよね……。
Twitter上で公表された分は既読だったのでお目当ては描き下ろしの部分で、本作でもっともネット上を騒がせた「おけパ中島」こと「おけけパワー中島」についてなんか情報無いかなと思っていたのだが、天才字書き「綾城」の立役者としてのエピソードが補強された。
それで結局姿は描かれずじまいだったのだが、これに関しては描くべきことではないって判断だったのかな。「おけけパワー中島」がTwitterのトレンドに入った7月頃、ねとらぼでインタビューを受けている(おけけパワー中島という概念が誕生した日 同人字書きの情念を描いた漫画「同人女シリーズ」作者に話を聞いた)のだが、
── 漫画の内容そのものも身近なことでとても面白かったです。おけけパワー中島にモデルはいるのでしょうか。
真田 直接のモデルというのは存在しません。七瀬(天才字書き綾城に憧れる秀才字書き)というキャラにとって、彼女の感情を最も揺さぶり、めちゃくちゃにするのはどういう存在かと考えた結果、自然と生まれてきました。
こういう経緯で自然に出てきたキャラで、このキャラが一番バズるとは思っていなかったらしい。まぁ姿だって出てないしね。
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しかし「おけけパワー中島」って名前は本当に見事だと思う。作中に登場する見てる方が息が詰まるほどに必死な主人公達とは対極的な「軽さ」を見事に表現している。……いや、というか、こういう名前でこういう感じの人って実際に居るんだよなぁ、これが。誰もが見た頃があるから、あれだけ「「「自分これ知ってるぞ!!!」」」ってバズったのである。
最初の中島の名前は、本当に普通の、よくある女性の名前でした。それだとあまりに中島がイヤな奴になってしまうので、かわいいハンドルネームを付けてバランスを取りました。
本書刊行に合わせたインタビュー(同人活動には人の心を強烈に惹きつける力がある――同人女の感情を描いた漫画『私のジャンルに「神」がいます』真田つづるインタビュー - ねとらぼ)によると、本来は割と普通の名前だったらしい。
本作読んでると、著者の真田先生のバランス感覚相当しっかりしてるなと感じる。絶対どこかでエゴや不備を出してしまいがちだと思うし、発表してる媒体はそれを見つけられた瞬間炎上必死のSNSだ。これも上であげたインタビューで
――ちなみに、さまざまな同人女が出てくる本作ですが、登場人物の中で誰が一番真田さんに近いところがあるのでしょうか?
うーん…………よくわからないです……。というのも、主人公が「私」にならないように、というのを毎回心がけているので、私に近いキャラはいないかな……と思います。人に伝わる話を描けるかどうかは、どこまでキャラクターを客観視できるかにかかっていると思ってます。
ってやりとりがあってそうだろうなぁ、と。物語から自分を排除しないと難しいよね、こういう話は。
ところで全然関係無いんだけど、本作の話題の傍流で、一人の天才が現れてジャンルに決定的なまでに強い影響を及ぼしてしまう現象を「司馬遼太郎(現象)」って言ってる人をネット上で見かけて笑ってしまった。本書になぞらえて言えば、近代日本史ジャンルの「神」だもんなこの人。きっとこういうのは同人に限らない、普遍的な現象なんだろう。
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