雪の峠・剣の舞 – 岩明均

『寄生獣』『ヒストリエ』で有名な岩明均が描く戦国時代題材の連作短編を2作品収録している。両方面白いが、築城プレゼン対決という猛烈に地味なエピソードで、時代の移り変わりに翻弄される人々を描いた『雪の峠』が特に素晴らしい。

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2001年出版。寄生獣(1988年~1995年)とヒストリエ(2003年~)の間にモーニングの増刊とヤングチャンピオンで描かれた連作短編である。ヘウレーカやヒストリエで西洋古代史に造形が深いと言う印象があるが日本史の作品も描くのだなあ。

どこだったか忘れたがチラッと紹介されていたので読んだ。なお自分は歴史に関して完ッッッ全にズブの素人なので歴史ファンの人はまあ怒らずに読んでください。知らないヤツなんてこんなもんです。

雪の峠

……変わってしもうた……何もかも…… 土地も…… 人も…… あの頃の……良き時代は……

常陸へ……峠のむこうへ……還りとうござる……

無教養なりに「すげえ良いもの読んだな……」ってなる作品。関ヶ原の戦い後、西軍についたことで徳川家から領地の移転を求められた大名家、佐竹家。この佐竹家が転居地で領府の場所を決めることになり、その場所を巡って家臣達が争うと言う内容である。凄い……。滅茶苦茶地味な題材だ……。

先進的な志向を持つ殿、佐竹義宣と側近の渋谷内膳が主役となり、旧態依然とも言える家臣達の反対を躱して見事窪田の地を領府として治める……というワケで、なんとなく「なろうもの」のような痛快サクセスストーリーと言いたくなるのであるが、これがなかなかどうしてそうでもない。

興味深いことに本作は「古い考えの家臣達」にもまた視線が向けられている、というかむしろこちら側の方が主題の方にも思える。一言で言うなれば「戦国時代に戦に明け暮れていた者達が、戦後の平時の時代となった時、近代化という時代の波に洗われる」というテーマの本作において、主となるのは実は彼らの方だったのではないか。この視点の持ち方が歴史だなあ、知らないヤツが言うこっちゃないんだけどさ。

ラストの「現在の秋田市である」で「うおおおお!」となり、京都市に墓を建てられたことを示す最後のページで「ふむ……?」となる。彼は文官として活躍するも最後は大坂冬の陣で流れ弾を受けて戦死したらしい。戦後の「太平の世」を主張して近代的な政策を推し進めた内膳が、結局は戦で亡くなってしまう皮肉といったところだろうか。

渋江政光(しぶえまさみつ) - Wikipedia

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Wikipediaで内膳を調べたけど名前が違った。歴史あるあるやね。

剣の舞

けどなぁ!しょせん剣豪なんざたかが知れてるぜ!何しろ天下一が2人もそろって城1つ女1人守れねえんだからな!

切ない。実在した剣豪、疋田景忠(作中では疋田文五郎)が主人公の作品で、ラストの試合で「こんなに強かったの?」ってなるのにそれだけではどうにもならないこともある。

疋田景兼(ひきたかげとも) - Wikipedia

Wikipediaで文五郎を調べたけど名前が違った(2回目)。

柳生新陰流の祖である柳生新左衛門が歯が立たなかった、って文五郎めちゃくちゃ強いじゃねえか。なんかもっと有名になっても良さそうだけどな……と思ったのだが、書籍末尾の実在人物小解説にも書かれているが、彼がどんなに個人として強くあっても為政者(このケースでは徳川家康)が求めたのは組織としての強さへの志向があった柳生宗巌の方であった、っていうのは歴史だなあ。

終わりに

Wikipediaへのリンクとか貼っちゃって歴史ファンの人は眉ピクピクしてないだろうか……。

失礼ながら岩明先生、このままだとずっとヒストリエを書き続けることになっちゃうから、どこかで本作のような短編の歴史作品も描いてほしいんだよなぁ。描く側からしたら「短編だからって調査・検証・考察のコストは低くなるもんでも無いんだよ!」って感じかもしれないが、岩明均という作家が1ジャンルで終わるの滅茶苦茶惜しいんだよな……。

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