神々の山嶺 (フランス製アニメ映画版)

原作夢枕獏、漫画谷口ジローの名作が日本ではなくフランスでアニメ映画化。谷口ジローが描いた山の恐ろしさが映像で表現されている。

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「『坊っちゃん』の時代」「遥かな町へ」「孤独のグルメ」など数々の傑作漫画を世に送り出し、2017年にこの世を去った谷口ジロー。この天才漫画家には、生前に実現を待ち望んでいた海外プロジェクトがあった。第11回柴田錬三郎賞に輝いた夢枕獏のベストセラー小説を漫画化した「神々の山嶺」を、フランス映画界が長編アニメーション化する企画である。

もともとフランスで絶大な人気を誇り、2011年にはフランス政府から芸術文化勲章シュヴァリエ章を授与された谷口は、同国の製作チームのもとを二度訪れ、作画やストーリーの確認に携わっていた。惜しくも完成版を観ることは叶わなかったが、構想から完成まで実に7年を費やした本作は、第74回カンヌ国際映画祭でプレミア上映されたのち、フランスの300以上の劇場で公開され、大ヒットを記録。同国のアカデミー賞にあたるセザール賞では長編アニメーション映画賞を受賞した。 - 日本版公式サイト

前置き

日本人が想像する100倍くらい谷口ジローが好きなフランスが『神々の山嶺』をアニメ映画化。フランスは文化パス(若者の文化芸術活動を資金的にサポートする振興券)を配布したら日本の漫画を買いまくったり(※1)、ファイナルファンタジー9のアニメ化がフランスのスタジオで製作決定したり(※2)、いったいどうしてしまったのだろうか?

※1:フランスで4万円支給の文化パスを18歳に無料配布→日本の漫画が急速に売上伸ばす 書店や版元に実際のところを聞いてみた | ねとらぼ
※2:『FF9』アニメ化をフランス・サイバーグループスタジオが発表。ジタンとガーネットの物語が初のアニメ作品に | ファミ通

『Le Sommet des Dieux』のタイトルで2021年9月に放映した後、Netflixが放映権を獲得し11月から全世界で配信したのだが一部の国は対象になっておらず、本国であるところの日本は対象外だった。これがようやく2022年7月になって日本でも劇場で公開されて見られるようになった。余談だが、図らずも映画『ゆるキャン△』と放映が被ることに。世はまさにアウトドアブームである。

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ちなみにNetflixの放映範囲には日本だけでなくフランスも入っておらず、Steamでお馴染みの「日本が作ったゲーム、日本人がプレイする権利あるわけないだろ!?」が当国であるはずのフランスでも発生しているらしい。うん、まぁ、でも、なんだ。VPNで国の設定替えたら見られたよ(ボソッ)。

感想

94分。短い。凄く短い。原作で印象的だった台詞はほぼすべてカットだ。つまり大塚明夫と堀内賢雄のメタルギアソリッド2コンビの音声素材は望めない。ところで羽生のCVが明夫なのってビカール・サン(毒蛇)=スネークから来てないよね……?一番残念なのは羽生と深町がエベレストで分れたところで話が終わってしまう点である。この先まだ重要な話あるのに!

基本的に、谷口ジローが描いた山の描写をアニメーションで表現することを中心に作られているという印象である。比較すると原作漫画は心情描写多めだなというか、あくまで夢枕獏作品のコミカライズなのだと気づく。岸文太郎の描写の違いが原作漫画と本映画の違いをよく表していて、あんな亡霊みたいに出てきたら原作漫画の「きし……きしよう……」にならないよなぁ。

しかし山の描写は圧巻だ。漫画でも思ったが「これ見て山登ろうとする人がいたら頭イかれてるよ……」という山の怖さを存分に感じることができる。山のサイズに対して人間が本当にゴミみたいなスケールであることを歴然と感じるし、時間概念のある媒体になったことで一瞬のミスであっという間に死一歩手前の状態まで突き堕ちる恐ろしさが表現されている。あと山以外でも地味に90年代の日本の描写が完璧である。なんちゃって日本みたいなの海外作品では結構見るが「今の日本人でも再現できないだろこれ……」みたいな仕上がりになっていて驚いた。

こうしてみるとやはり自分は本作で、夢枕獏が描いた羽生という男の心情に、深町同様身もだえしていたのだなぁということを思った。言語の壁で届きづらいこういう部分、フランスではどう受け取られていたのだろう?

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