百合漫画『あの娘にキスと白百合を』作者、缶乃の最新作。通称『やさかん』。
決まった二人の固定カップリングが好まれる傾向にある百合界隈に、あえて三角関係という真っ向から対立する要素を中心に据えて挑む作品。
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それはひとりでも、ふたりでもなく、私たち三人の物語――。
元バスケ部の中学3年生・真幸は、憧れの先輩・あきらが進学した桜智高校を目指して勉強中。けれどテストのたびに赤点で涙を流す彼女にとって、進学校の桜智に合格するのは夢のまた夢。その様子を見かねた真幸の母は、知人の娘だという桜智の学生・凛を真幸の家庭教師として家に呼ぶ。真幸と凛はすぐに意気投合するが、実は真幸が憧れるあきらと凛には関係があって……!?
『あの娘にキスと白百合を』の缶乃が描く完全新作!女の子だけの、新提案三角関係ラブストーリー!! - KADOKAWA
前作の『あの娘にキスと白百合を』(記事)でいまだに唯一無二ともいえる群像劇百合を描いた缶乃先生の最新作である。他の作家がやろうとしてもやれないようなことをする作家というイメージが個人的にあるのだが、今作でも三角関係という百合業界が基本的には避けるテーマをデン!と引っ提げてやってきた。
『あのキス』6巻の内容も三角関係とポリアモリーの話だったので、こういう話を描く兆候はあったように思える。のであるが、それよりもこういうテーマの話が連載可能になったことの方が興味深く思える。長期連載に耐えうる恋愛の物語を描くならドラマを重視しなければならず、そこから産まれる不安定性が「なにがなんでも二人が幸せであってほしい」と考えがちな百合ファンの保守性と真っ向から対立する。そんな中でもこういう話を出してきたのである。
この辺が「『やがて君になる』以降の作品だな」と感じる。あの作品は各少年誌・青年誌に「百合作品をウチでもやってみようか」という選択肢を与えたマイルストーンとなる作品であり、そこから展開する多様性の中でないと本作のようなテーマでは始められなかったのではないだろうか。『やがて君になる』(記事)が掲載されていた電撃大王に、『やが君』連載終了後に入れ替わるようなタイミングで連載が始まったのはまさしく象徴的とも言える。
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私はお話の美しさであるとかドラマ性重視で、作中のキャラクターがたとえ幸せになれずともエモい展開にしてくれ!という人間である(ので「闇の百合厨」と自称している)為、こういう作品が出てきてくれると嬉しい。正直、百合界隈は同人との境界が曖昧で、あくまでキャラ主体でストーリー重視の展開はしないみたいなところがある。そこから脱却する流れは歓迎したい。
そういうわけで本作には百合界隈ではあんまり見られない描写が見られる。例えば既に出来上がっている二人の関係に第三者が割り込もうとする展開、恋愛ものでは主人公カップル二人にお邪魔虫キャラがやるサブエピソード的なものが普通だと思うのだが、本作ではこの割込みをサブキャラではなくてメインキャラ(というか主人公)のあきらちゃんがやる。
「割り込もうとするやつが主人公」という保守的な百合界隈に真っ向から対立する描写、案の定「真幸と凛はいい関係になりかけてるんだから、あきら邪魔じゃん」的な意見を見かけた。「三角関係をタイトルに入れてさえこういう反応でるかぁ~」という気持ちになったのだが、いずれこういうのも面白いという反応が多くなればいいなと思っているし、本作がそのマイルストーンになってくれればいいなとも思っているのである。
……と思っていたのであるが、全2巻で終了してしまった。掲載紙の電撃大王は本作、『一度だけでも、後悔してます』、『金星のリヴェール』と立て続けに百合作品が連載終了していて、一時期は百合に舵を切ったように思われた編集側の意向が変わったように見えるのでそれが影響していないか心配である。
なので「あとがきに何か書いてるかな……」と思って読んだらあとがきが無くて「えっ?」ってなった。Twitter見たら本作にはあんまり触れられておらず、なんかウマ娘のイラスト上げてる……。まぁ1巻でも1ページしかなかったから元々あんまりページ的な余裕ないのかもしれないけど、あとがきは欲しかったなぁ……。
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