夕凪の街 桜の国 – こうの史代

2016年11月12日、こうの史代原作の「この世界の片隅に」がアニメ映画化される。本作品は同作者がそれよりも前に著した作品で、「この世界の片隅に」の前身とも呼べる作品である。

タイトルにあるとおり、短編の「夕凪の街」と中編の「桜の国」が収録されている。ともに原爆の被害にあった人物や、その家族を描いた作品である。

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「夕凪の街」は十年前に原爆の被害にあった成人女性が同僚と恋仲になるも急に体調が悪くなり……という話。ほのぼのした絵柄と話に急に死臭が差し込むのでなかなかゾッとする。若干終盤の展開が唐突であるが、作者もその辺が気になっていたのか解説(p100)で「原爆症は、被害後数年たって発症することが珍しくありません(中略)説明不足でしたので補足させて頂きます」と書かれている。現実にあることでも、そのまんま書くと嘘みたいなことってあるからなぁ。

「桜の国」は前後編に分かれており、原爆の被害にあった母親を持つ女性が主人公。小学生時代を書く前編と、その時代の知人と15年後に再開する後編で構成されている。いわゆる被爆二世が主人公であり、実際に被害を受けた「夕凪の街」の主人公よりは、当時を知らない一般人の立場に近い。原爆の影響が数十年後の時代にも及ぼす影響を、現代人の立場から垣間見る話。

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ところで、こういう内容の本って結構読むのに勇気がいるのだが、著者はあとがき(p102)で

でもやっぱり描いてみようと決めたのは、そういう問題と全く無縁でいた、いや無縁でいようとしていた自分を、不自然で無責任だと心のどこかでずっと感じていたからなのでしょう。わたしは広島市に生まれ育ちはしたけれど、被爆者でも被爆二世でもありません。

(中略)しかし、東京に来て暮らすうち、広島と長崎以外の人は原爆の惨禍について本当に知らないのだということにも、だんだん気付いていました。私と違って彼らは、知ろうとしないのではなく、知りたくてもその機会に恵まれないだけなのでした。

だから、世界で唯一(数少ない、と直すべきですね「劣化ウラン弾」を含めて)の被爆国と言われて平和を享受する後ろめたさは、わたしが広島人として感じていた不自然さよりも、もっと強いのではないかと思いました。

こういう風に書いていて救われる。この文章に合致する読者は少なくないだろう。

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