ユリイカ2019年4月号 上遠野浩平特集

文学、思想などを広く扱う芸術総合誌ユリイカの2019年4月号で作家の上遠野浩平を特集している。20年前に発表されたデビュー作の「ブギーポップは笑わない」が、2019年初頭からアニメ化されたタイミングでの特集となる。多数の寄稿が掲載されており上遠野の対談も収録されている。

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ライトノベルの時代を画した上遠野浩平の「ブギーポップ」シリーズ、ミステリやSFとも境界を接しながら、「セカイ系」とも称されたその世界観は読者のみならず、その後の創作にも大きな影響を与えた。その影響とはなんだったのか、上遠野浩平が書きつづけるものとそれがもたらしたものから現在のなろう系にも至る系譜をたどり、平成の終わりのあの時代の――現代の小説の規矩を問いなおす。 - 青土社

上遠野浩平のファンなので存在を知った瞬間即買いした(電子書籍ってこういうとき便利だね)。ライトノベルのみならず文壇に少なからぬ影響を与えて20年、すっかり批評の対象となった上遠野に対して様々な分野のメンバー(文壇関係だけでなくアニメ版ブギーポップ役の悠木碧とかもいる)が縦横に書いている。

色々な批評があるが、個人的に藤原聡紳が頭一つ抜けているように感じる。『上遠野浩平VS「運命」』というタイトルの批評で上遠野が書いてきたテーマを上手くまとめている。要約すると、どうしようもない「運命」とそこに対して勇気を持って対峙する「戦士」というモチーフが上遠野の書いてきたことだ、というわけであるが実際に読んできた身として確かに腑に落ちる。上遠野がファンを公言する「ジョジョの奇妙な冒険」が勇気の捉え方に影響しているというのもそうだし、最強とはっきり書かれているのにフォルテッシモがあんな扱いなのも「戦士としての未熟さ」が原因というわけだ。余談だが最初に『この天才の作家人生にも浮き沈みはあった』とはっきり書いてあることもいい。

編集側もこの人物が一番詳しいなと思ったのか、特集末尾の『上遠野浩平主要作品解題』という各作品に対する解説のコーナーも藤原が担当している。「ブギーポップは笑わない」から現在に至るまで順を追って解説しているが、「上遠野のテーマがおおよそ第1期~第3期に分けられており、各巻はその時期のテーマの中で書かれている」としてその変遷とともに説明している。

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読んでみると自分がなんとなく「この辺の時期から変わったよなぁ」と思っていたものが上手く整理されて驚いた。まず初期は「可能性」をテーマにしていたが、2000年代に入るくらいから前述の「運命」と「戦士」にテーマが変わる(この初期に「ナイトウォッチ」が、続いて「ビートのディシプリン」があるのがわかりやすい)。そして「ヴァルプルギスの後悔」で作中内においても運命の絶対性が否定されて以降はまた「可能性」にシフトしていき、その影響からか初期作品のリバイバルとも呼べる要素が散見されるようになる。

こうして見ると、たとえば最初は絶対的に思えた統和機構が話が進むにつれてなんかあんまりな感じになっていったのは、「可能性」がテーマだったころに設定された組織が作品のモチーフが変わるにつれて意義が薄れていったんだなと言うことが分かる。色々なことが腑に落ちたが、こうしてみるとさすがというかやっぱり批評性のある作家だったんだなぁ、そして(最初から自分でも分かっていたものの)本当に今まで何にも考えずに読んできたんだなぁと改めて思うのであった。

(しかし、せっかく上遠野先生の対談とかもあったのにそれに触れずに終わっちまったな)
(まあいいじゃん)

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