告白なんてされたのは初めてだった。 なにを考えればいいのかも分からない。 ……そして、これからずっと先に、ふと振り返ると。 最初に告白してきたのが女の子だったのは、そういう運命の暗示だったのかもしれない。
人気百合漫画『やがて君になる』(記事)のスピンオフ小説。著者は『安達としまむら』シリーズの入間人間。
本編中において「もう絶対勝利させては貰えないサブポジション」でのたうち回る佐伯沙弥香先輩が主人公。本編読んでいると主役カップルよりもずっと心情描写に印象が残るキャラで、外伝で掘り下げするとなったら他には考えられないという人物でもある。スピンオフ作品は原作知ってるとなんか違うなという違和感が出ることも多いのだが、後書きで原作者が「あまりに紛れもない佐伯沙弥香」と書いているとおりでさすがと言うほか無い。
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幼少時代から大人びていて、どこか達観した少女だった佐伯沙弥香。だが小学五年生の時に友達の女の子から自分へ向けられた感情に、彼女は答えを出せずにいた。そして中学時代。仲の良かった先輩・千枝から恋心を打ち明けられた彼女は戸惑いながらも告白を受け入れ、次第に恋愛の深みにはまっていくが……。ままならない想いに揺れ動く少女、佐伯沙弥香の恋を描くもうひとつのガールズストーリー。 - 角川書店
冒頭の引用で自らも認識しているとおり、レズに翻弄される運命にある沙弥香先輩であるが、小学校時代・中学校時代でそれぞれ自分を好きになった女の子の影響で徐々に同性愛を意識していく。小学生時代ではおそらく本人もよく分かっていないであろう衝動に任せて首チューしてくるような娘に付きまとわれ、中学生時代ではとうとう女子の先輩に告白される。
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この中学の先輩が本編4巻収録の『幕間』にたったの5Pしか登場していない中学時代の元カノになるわけであるが、「自分にはよく分からないけれど求められた想いには答えよう」としていったら段々乗り気になっていった沙弥香先輩に対して、「よく考えたら自分は女の子のこと好きな人間じゃ無かったわ」とばかりにフェードアウトしようとする最悪の対応で迎えられる。内心では理解しているのに、ストイックに上を目指していた自分をねじ曲げてまで「先輩の彼女」であり続けようとする沙弥香先輩が切ない。醸し出す敗北の魅力に入間人間が1行1行魂を込めすぎである。
七海燈子と出会って、私は納得する。 理解でもなく、諦めでもなく、そこにあるのは自分への納得。私は、女の子に恋することしかできないんだって。
そんな傷心の沙弥香先輩であるが、ラストシーンの高校入学式で澄子を見て一目惚れし、生徒会に誘われるシーンで終了する。さも明るい未来の予兆のように書かれているが、この澄子が百合史上に残る超弩級の核地雷であることを知っている読者からすると「ああ……」と嘆息せずにいられない。求められれば地雷、求めても地雷。約束された敗北に突き進む性分はこれからも続くのである。ツラい。
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