私が差し出せるのは血と労苦と涙と汗だけだ。“I have nothing to offer but blood, toil, tears and sweat.”
(1940年5月13日 ウィンストン・チャーチル)
『大ヒットゲーム開発者たちの激戦記』という副題がまさしくふさわしい開発者たちの悲喜交々を書いている。著者のシュライアーはゲーム系メディアであるコタク(Kotaku)のニュース編集者で、方々に取材して得た生々しい現場の声を本書で明かしてくれる。
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大ヒットしたビデオゲームはどう生み出されたのか? 約百人ものインタビューから描き出される開発現場の情熱、混乱、絶望、そして歓喜。
倒産間際の崖っぷちからクラウドソーシングで起死回生した会社、たった一人で5年近くかけて開発して数十億円を売り上げた青年、リリース時に大失敗するが改善を重ねて数千万本売れたゲーム、大ヒット間違いなしとされながら開発中止で闇に消えた幻の大作など、ゲーム開発にまつわるエピソードが全10章で語られる。 - グローバリゼーションデザイン研究所
以前から知っている作品であったが、本作の続編とも言える『リセットを押せ』の邦訳が出版されると聞いて、先に読んでおこうかと思って購入した。結局読み終わる頃にはとっくの昔に発売後だった。まぁ、そんなもんだよな。
全10章仕立てで1章1作品(≒1会社)の構成となっている、作品を列挙するとPillars of Eternity, Uncharted4, Stardew Valley, Diabro3, Halo Wars, Dragon Age: Inquisition, Shovel Knight, Destiny, Witcher3, Star Wars 1313となる。ゲーム好き(特にPCのゲーム)なら大抵は知っている作品ばかり。錚々たる顔ぶれだ。
個人で作成したStardew Valley、同士達で退社して賭に出たShobel Knight、大会社の悲哀を感じるDestinyなどゲーム開発も様々だが、概ね惨憺たる有様である。
多分一番酷いのは一番最後のStar Wars 1313だろう。この作品はなんと世に出ていない。またいつものごとく開発者の苦難が書かれた(かなり開発が終わってるのに、ジョージ・ルーカスが主人公をボバ・フェットにするよう命じて無茶苦茶になったりする!)あと、ディズニーがルーカススタジオを買収した為に開発していた子会社のLucas Artsも閉鎖、頓挫してしまうのである。その無念たるや……と思うが、座礁したプロジェクトなんて知らないだけで色々あるんだろうなぁ。これは酷い例だと思うが。
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出資者などの別会社に振り回される悲劇が多いが、その別会社だって安泰とは言いがたい。Microsoft傘下となったEnsemble Studios(Age of Empireで有名)がHalo Warsを作らなければならなくなって、おなじく傘下で版権を持つBungieから良く思わないまま仕事をすることになるのを取り上げたと思ったら、別の章ではそのBungieがDestinyで無茶苦茶になっていくのを取り上げたりして「どこへ行っても地獄だな」と思わずにいられない。
タイトルのBlood, Sweat and Pixelsは冒頭で挙げたとおり、チャーチルが首相となって初めて演説をした際の発言から有名となったフレーズ(参考:血と労苦と涙と汗 - Wikipedia)から着想されていると思われる。全然どうでもいい話だが、私は洋楽のロックを好んで聞くので、かつてアル・クーパーが在籍していたバンドBlood, Sweat and Tears(参考:ブラッド・スウェット・アンド・ティアーズ - Wikipedia)の方でこの単語を知った。なんだろう、労苦(toil)は引用から抜く傾向があるんだろうか?
「ゲーム作りは、仕事中毒みたいな人間を引き寄せるね」とオブシディアン社のオーディオ・ディレクターであるジャスティン・ベルは話す。「時間をどんどん差し出せるような人間を求めているんだ。クランチなんてクソ食らえだよ。人生を台無しにする。自分には子供がいるんだけど、クランチがやっと終了したとしよう。子供たちに会って、じっと観察してこう思うんだ。『おお、 6 か月も経っている。もう別の子みたいじゃないか。その間、僕はここにいなかったんだ……』とね」。
ゲーム開発者達の惨状を見るに付け、なかなか上手いタイトルをつけたものだと思う。クランチ(Crunch。週末も無い労働と残業を強いられることを指す、ゲーム業界恒例の悪習)から帰ってきた開発者の発言を聞くと、戦争からの帰還者さながらの様相だ。私ももう社会人なので色んな仕事の背景に労働者の存在を感じるようになっているのだが、解像度が上がってなかなか複雑な気分である。
Stardew Valleyの例を見ると、やっぱり開発は個人でするのが理想で、成功するかどうかは良いパートナー(配偶者)の有無が影響している、という身も蓋も無い生々しい感想を抱いてしまうのであった。
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