高慢と偏見 – ジェーン・オースティン (光文社古典新訳文庫版)

予想に反して面白かった英古典文学。当時のイギリスの貴族文化が当時の人間の視点で冷静に語られていて、現代人から見るとなかなか興味深い。と同時に少女漫画みたいな部分もあるのだが、もちろん1796~1797年に書かれた本作は、実際には少女漫画よりもずっと先輩である。

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はつらつとした知性を持つエリザベスと姉妹たちは、近所に越してきた裕福で朗らかな青年紳士とその友人ダーシーと知り合いになる。ダーシーの高慢な態度にエリザベスは彼への嫌悪感を募らせるのだが……。すれ違いの恋を笑いと皮肉たっぷりに描く、英国文学の傑作、香気あふれる決定訳登場。 - 光文社

超有名古典文学。教養として読んでみた。複数の出版社から翻訳が出ているが、私は評判にたがわず翻訳は一番新しめのものを読むようにしているので光文社のを読んだ。余談ながら光文社古典新訳文庫版は海外SF小説の翻訳ではお馴染みの小尾芙佐氏が担当している。

上巻

スペックは高いものの嫌味な奴に思われているが、実は誤解を受けやすい性格と境遇だったミスタ・ダーシー、そのダーシーに好意を抱かれているが気づいていないエリザベス・ベネット(これが主人公)、邪魔をしてくる嫌味な脇役キャラ……う~ん、凄い少女漫画っぽい。

一番少女漫画っぽいなぁ、と思うのはミスタ・コリンズの描写である。悪い奴というよりはちょっと金持ちに生まれたぐらいの能力の低い奴なのだが、登場するたびに辛辣に書かれている。褒めるところなんてまるでなしと言わんばかりである。

少女漫画を読んでると「良いところが一つもない完全なお邪魔キャラ」みたいなのが出てきて、その「薄っぺらさ」にげんなりとしてしまうのだが同じ感覚を覚える。「女から見たときに魅力的でない男」に対する女性の感覚はこういうものなのかもしれない。そういえば母親のミセス・ベネットの描写も酷いんだよな……。大体どういうことにイラついてるのかの表れなのかもしれない。

上巻はミスタ・ダーシーがエリザベスに告白し、誤解を解くための書状を渡して終わる。本を閉じて何気なく表紙を見るとタイトルが「高慢と偏見」という直球の内容であったことに気付く、なかなかニクい場面での区切りである。

下巻

実は全編を通してそれほど大きな事件があるわけでもないのだが、主に文化の違いを感じられて面白かった。

当時の人間(正確にはアッパー・ミドルクラスの貴族を中心とした文化の人間)にとっての結婚観は、今よりもずっとドライで世間体と経済性をとにかく重視する様子である。

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後半のメインイベントとなるリディア(主人公の妹)とウィッカムの駆け落ち事件でこれは顕著になる。リディアを連れ戻してウィッカムと引き離すのが一番ありそうな話だが、「こういうことになった以上は何とかして二人を結婚させなきゃ!」という現代人には予想外の展開に進む。登場人物らの中ではそれが当たり前らしく特別説明がない。

日本は恥の文化と言われて久しいが、「娘がしでかしたことが一家に大打撃を与える!」という駆け落ち騒動に見るベネット家の発想はもろに日本人的な恥、汚れの無限責任の様相を呈している。駆け落ちしたけど結婚せずに戻ってきた娘、なんてありえないんだろうなぁ……。

ところで予想外なことに解説がかなり充実している。下巻の最後の一割近くを解説・著者年表・訳者あとがきに割いてくれていて、読んでいてピンとこなかった部分も当時の文化を知って合点がいくことが多かった。直接的に書かれていないけど打算的な思考をしてました、という箇所が結構あったんだなぁ。

著者年表もなかなかおもしろい。21歳(1797年)の時に完成したけど出版されたのは37歳(1813年)の頃。16年も経ったら描写が古めかしいとか言われなかったんだろうか?というか歴史に残る作品を21歳で書いたのか……。

そういえば作者本人のファーストネームであるジェインを主人公の姉(批判的に書かれるキャラが多い中で、かなり好意的に描写される)の名前に使われているのはなんでだろう?解説に書かれるかな?と思ってたのだが。

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