アストロシティ:ライフ・イン・ザ・ビッグシティ – カート・ビュシーク

漫画に与えられる賞としてはおそらく世界的に最も評価が高いアイズナー賞を受賞しているが、日本ではいまいち知名度が低い。アメコミには珍しい、既存のキャラクターがいないオリジナル設定の作品なのでそこが新規客にとって魅力だと思うのだが、有名なキャラがいないとなかなか難しいんだろうな。

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スーパーヒーローの持つ意味と可能性を改めて世に問い、新たなヒーローの時代を拓いた名作!豊かなドラマ性、練りに練り込まれた世界観、ストーリーの各所に隠された「仕掛け」――本書『アストロシティ』はスーパーヒーローという架空の存在を、現実のフィルターを通して多的に切り取った。

(中略)本書はこれまで深く語られることのなかったこうしたテーマを市井の人々だけでなく、ヒーロー達自身もふくめたあらゆる視点から描き、アイズナー賞ほか各賞を受賞、高い評価を得た、コミックス史上に残る1冊である。収録:ASTRO CITY #1-6 - ヴィレッジブックス

解説によるとライターのカート・ビュシークとアーティストのアレックス・ロスはマーベルズで一躍有名になったコンビらしい。マーベルズ(記事)は報道カメラマンの目線でヒーローを描写する作風で評価された作品なのだが、この作品は更にそれを進めてごく一般的な市民の目線からも描写される。主人公が毎回変わる一話完結の短編集で本作には6編収録されている。

『ウォッチメン』や『バットマン:ダークナイト・リターンズ』の影響で完全にハード・バイオレンス志向になってしまった(両方既読だが、あの作品を読んでそうなる気持ちはよく理解できる)80年代後半以降のアメコミの風潮のなか、アンチテーゼのように出てきたのが本作。写実性やリアルさについては踏襲しているともいえるが、暗くヒーローへ否定的になりがちなそれらの作品と違いヒーロー賛歌というか肯定的に描いているので、ディープなファンほど「もう露悪的なの飽きたよ」ってなっていたであろう当時のアメコミクラスタに評価されたのがよく分かる。

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ちなみにアメコミはいっつも既存のキャラクターの設定がポンポン出てきて「あ~はいはい。こっちが知らないだけでなんか設定があるんでしょ」ってなるのだが、オリジナル設定の第1巻である本作でも割とそんな感じである。アストロシティの設定を作り込んで、最初からお出ししていくスタイルなんだろう。本国のアメコミ読者ももうこういうのに慣れているんだろうか?

一度『ライフ・イン・ザ・ビッグシティ』と『コンフェッション』が邦訳されて絶版になった後、ヴィレッジブックスから再度邦訳されたのが本書で、帯には「伝説の人気シリーズ、再び、刊行スタート!」とあるが、結局後には続かなかった。コンフェッションはプレミア化して5000円くらいしているので、続きを読むなら原書で行くしかないかな……。

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