企業の不祥事のニュースが絶えない昨今であるが、私がネット上の情報ばかり見ているからか、口さがないというか感情的になりがちなものが多い。一度お堅い内容というか、きちんと資料を調べて原因や法則について体系的に考察した本を見ておきたいと思っていたので読んだ。
なお著者の井上泉は損害保険ジャパン、東日本高速道路の役員OBでタイトルにある「経営者の視点から」というフレーズは、「不祥事を起こした企業の経営者の発言やインタビューを元に」という意味ではない(当然関係者の公的な発言も資料の一つではあるが)。
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第1章で不祥事の定義について、第2章で不祥事が起きる要因について、第3章では本書の半分以上の紙面を割いて実際に起きた10の実例を事例研究として紹介している。
事例研究
大和銀行ニューヨーク支店巨額損失事件:腕利きと呼ばれていたトレーダーが大した金額ではない失敗を隠そうとして泥沼、上の知る所となるも一緒に隠し通した。
NOVAの破綻:経営拡大の為の無茶で客側に不利を強いていた。NOVAは急成長した会社ではあったが急成長というよりは不自然な成長だった。ポイント制という制度を利用して、収益計上の前倒しなどを行っていた。
東京ドームシティ「舞姫」事故:安全の為に決められていたルールが現場での実態と伴わず形骸化し、遊具から転落事故が発生。裁判では経営者側に監督責任を求める回答になった。
安愚楽牧場(あぐらぼくじょう)問題:日本最大の投資被害事件(投資詐欺事件一覧が最後に掲載されているが額が群を抜いている)。これもNOVAに似ていてオーナーへの返金しなければならない額が会計上認識されていなかった。
大王製紙巨額借入事件:井川元会長がマカオやシンガポールのカジノにはまり、資金繰りで子会社から融資を受けていた事件。井川一族の支配力があまりにも強いため、子会社側も盲目的に金額を払ってしまった経緯がある。しかしその支配も、三代目の不祥事で瓦解してしまった。
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オリンパス粉飾決済事件:隠蔽用の法人を立ち上げて、そこに負債を移し(通称「とばし」)て本体に被害が無いように見せかける。さらに各所に働きかけて資金の移動を行い負債を隠す。人事にはこの隠蔽工作に関与した人間への優遇があり、関係した人間複数で隠蔽していた。また、外部の目として期待されていた監査もオリンパスと強い利害関係にあるメンバーで構成されていた。
カネボウ美白化粧品事件:発売した化粧品で客から白斑の症状の意見が出るも、取り上げなかった。客の意見をどこまで取るかは難しい問題であるが、すでに臨床で問題が無かったというだけでは済まされない域に達していたにもかかわらず対応の遅れが批判された。
JR北海道検査データ改ざん問題:一番行われている事件の程度が低い。元々経営状態が上手くいっていないためか、企業体質というべきレベルの低さで検査結果を改ざんを繰り返し、事故を頻発させる。
みずほ銀行反社会的勢力融資事件:反社会的勢力への対応という、社内での方針周知を明確にしなければならない難しい問題であったが、合併前の旧行意識による連携の不足で機能不全を起こし対応に不備が出る。
阪急阪神ホテルメニュー偽装事件:高級ホテルの食材に表記されている高級食材とは異なるものが使われていることが発覚していった事件。阪急阪神ホテルはそのなかでも、代表の対応が不味かったために特に大きく批判された。
まとめ
4章目以降は原因や対策などの話題になるのだが、不祥事を防ぐための法的な仕組みと、その形骸化について書かれている。システム自体は存在しているのだが、機能していないものも多いようだ。監査する側の役職と監査される側の役職に利害関係の強い一致がある、というのはこの典型だろう。企業の上層部が決めた内容が現場側で正しく実行されずに不祥事となる例は多いが、司法と企業でも同様で、法律が企業側の働きで機能を果たさなくなる例が多い。
状況改善に関する著者からの提言が載っているが、上記のような状態であるだけに内容自体は当然誰でもそう言うだろうという印象である。不祥事はルールの形骸化と常に共にあり、誰から見ても明らかな問題がまかり通ってしまうことに課題があるのだろう。
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