本サイトは本質的にはゴシップに溺れない善の心を持っているが、自分の意思では業界への下世話な興味をコントロールできない……。
『日本テレビ版ドラえもん』『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』『みずのまこと版涼宮ハルヒの憂鬱』の3作品について、関係者の悲喜交々を追うルポタージュ。サブカルチャーに対する取材をしている同作者から複数出ているシリーズで、本書はその3作目として2008年に刊行された。
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前置き
タイで勝手に作成されたウルトラマンシリーズがあり、ふたばちゃんねる二次元裏板(通称、虹裏)というごく限られた場所でこれに関する(正確にはこれに関する雑誌の記事の文章に由来する)定型文で話す「ダーク・ウルトラマン」スレがある。そこで散々チャイヨー・プロダクション他をネタに笑っていたのであるが、せっかくだし詳しく扱っている本を読んでみようということで読んだ。
各題材
日本テレビ版ドラえもん
日テレ板ドラえもん、なかなか複雑だ。粉飾決算の結果、読売新聞の指揮下に入った日本テレビの社内政治によって企画が「日本テレビ動画」社に投げられるが、製作途中で代表が高飛び。更に、藤本弘(藤子・F・不二雄の本名。FはFujimotoのイニシャル)や小学館が尽力したにも関わらず不義理な結果になったために藤本が本作品を良く思ってはおらず、あるとき富山の放送局が再放送をしたときに藤本から強く抗議を受けた事件があったことから業界ではタブー視。日本テレビ動画社が解体されて著作権がどこにあるか分からず、藤子プロ側にも放送の許諾を出すことをしない為に黒歴史化、という感じらしい。
この「日本テレビ動画」社の下りで田中角栄が出てきて驚いた。テレビ業界に強い影響を持つ政治家であり、大多数のアニメ製作会社が東京に集中する中「日本テレビ動画」は角栄のお膝元である新潟県に設立された会社、ということだそうだ。凄いところと関わったものだ。
ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団
チャイヨー作のウルトラマン(ミレニアム、エリート、ダーク・ウルトラマン)についての情報を期待していたのだが、焦点は封印状態となった『怪獣軍団』について。若干興ざめであるが、まぁ本書のテーマを考えると当然か。
チャイヨーのウルトラマンに関する権利を記した『76年契約書』が有効かどうかの裁判、日本では敗訴してタイでは勝訴するねじれの結果となっている。日本で敗訴となった理由が日本の司法の印鑑を絶対視する文化と分かっておもわずう~んとなってしまうし、どうもタイの裁判のほうが複合的に見ている気がする。
そこからチャイヨー代表のソンポートや3代目社長である円谷皐(初代である円谷英二の次男)の話になっていくのだが、円谷側も単に被害者とは言えない様相でなかなか複雑だ。著者も戸惑っている様に思える。
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余談であるが、円谷プロは半年ほど前にユーエム社(チャイヨーの後継企業)と米国でやり合っていた裁判で勝訴している。
円谷プロダクション(以下、円谷プロ)は10日、「ウルトラマン」シリーズをめぐりユーエム社と係争中だった著作権関連裁判に関して、書面を発表。現地時間の2019年12月5日に、アメリカ合衆国第9巡回区控訴裁判所において円谷プロの勝訴判決が出され、2020年3月4日までにユーエム社から上告がなされなかったことから、「ウルトラマン」キャラクターに基づく作品や商品を展開する一切の権利について、日本国外においても円谷プロが有すると確認され、権利侵害に対する損害賠償も認めた判決が確定した。 - オリコンニュース
契約書が作られた1976年から44年後の勝訴である。なんかもう気が遠くなるな……。
みずのまこと版『涼宮ハルヒの憂鬱』
みずのまこと版『涼宮ハルヒの憂鬱』のお蔵入りについて。完全に黒歴史状態になっていて、一般的(?)には「著者が角川に許可を取らずに同人誌を発行したから」という言説が流れていて一応自分もそれで把握していたのであるが、それに対する掘り下げである。
結論から言うと、「スニーカー文庫編集部は角川お家騒動の影響を受けた権力闘争と社内体制の中で力を持っている部署とは言えない状況にあり、メディアミックスを上手く機能させることが出来ずに本来任せるべきでないような作家に担当させてしまった」という感じらしい。
余談であるが話題がスニーカー文庫の方に移行して、スニーカー文庫って聞くと『ラグナロク』のことどうしても思い出しちゃうよなぁ~と思ってたら、直球でそれに関する記述が。
98年に大賞を受賞した安井健太郎さんの『ラグナロク』の漫画版を、00年から『少年エース』で連載したんです。ことぶきつかささんという『闘神伝』や『アキハバラ電脳組』のキャラクターデザインで有名なベテラン作家が漫画を描きました。ことぶきさんのほうが、世間的には有名だったんだけれど、安井さんがネームをチェックして、全部やり直しみたいなことが繰り返しあったせいで、第2巻まで単行本が出たところで、ことぶきさんが逃げてしまった。読者人気は高かったんですけど、続かなかったんです。スニーカー文庫の編集者は安井さんにつくし、「エース」編集部も、ことぶきさんをあまり守れなかったんでしょう。(p283)
ヤスケン……。まぁ断片的には聞いてたけどさ……。
スニーカー文庫ってスニーカー大賞という公募新人文学賞を設けているのだが大賞を毎回出しておらず、実際第3回(1998年)大賞が『ラグナロク』でそこから第8回(2003年)の『涼宮ハルヒの憂鬱』まで大賞が出ていない。この辺を考えるたびに「青木雄二(ナニワ金融道の作者)が新人賞の『1等賞:該当無し』が有る雑誌はブラックと判断して、毎回必ず1等が選出されているモーニングに応募した」というエピソードを思い出してしまう。
終わりに
当初の目的とはほとんどかすりもしない内容を読むことになったが興味深い内容だった。関係者が口を開きたがらない事実にはドラマが詰まっているなぁ……(遠い目)。
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