アイドルマスター シャイニーカラーズ 事務的光空記録(ジムシャニ)に登場する音楽・洋楽元ネタ

以前、ブラウザ・アプリゲームの『アイドルマスターシャイニーカラーズ(通称シャニマス)』内に登場する洋楽の元ネタをSpotifyにまとめ、かつ楽曲に関する記事を書いたことがある。

Sponsored Link

記事:アイドルマスターシャイニーカラーズ(シャニマス)に登場する音楽・洋楽元ネタ

担当の変更が理由なのかは不明だが、リリースから1~2年くらいで洋楽ネタは出てこなくなった。なのでしばらく忘れていたのだが、2023年10月よりWEB連載を開始したスピンオフ漫画『アイドルマスター シャイニーカラーズ 事務的光空記録(通称ジムシャニ)』のサブタイトルで再び洋楽の要素が出てきたので、姉妹記事としてジムシャニ版のページを書くことにした、というのが本記事となる。

Spotify Playlist - Foreign Music in THE IDOLM@STER SHIN COLORS

なおSpotifyでは全て同じ上記のプレイリストに収録している。

概要

謎の新人作家kusomiso……じゃなかった夜出偶太郎先生によるコミカライズ。近年のメディアミックスは明らかにレベルが上がったと感じるが、本作はその中でもかなり秀逸な出来である。まさしく連れてくるべき人を連れてきたという感想だ。

一方でkusomiso先生のpixivアカウントからシャニマス二次創作が一掃されたのはなかなか複雑な気分である。P天界隈なんかは界隈最大手が居なくなったことで阿鼻叫喚なんじゃないだろうか……とかなんとか思っていたら、kusomiso先生が公式で天井努の顔を描いた最初の人間になってしまった。凄い……。司馬遼太郎だと思ってたら本物の歴史学者になっちゃったみたいな感じか。

シャニマスに洋楽要素が出てくるのはしばらくぶりなのだが、これが誰の意向で付けてるのかよく分からない。本編のシナリオライターとして名前が判明している橋元優歩が音楽ライター出身なので本編もジムシャニも音楽要素はこの人が噛んでいる様な気がするのだが、憶測の域を出ない。それともkusomiso先生なんだろうか?

タイトル以前に作品内容もkusomiso先生がどこまで関与してるのか分かんないんだよね。シャニソンこと「アイドルマスター シャイニーカラーズ Song for Prism」がリリースされた関係で、はづきさんの年齢が公式で初めて分かるんだけど

これ見るにどうもkusomiso先生は、はづきさんの年齢知らされてなかったっぽいんだよな。公式コミカライズしてるんだから、主人公の基本的なプロフィールくらい伝えておけよ高山!

各話サブタイトル

1st page : A day in the life

ビートルズ(The Beatles)のアルバム「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド(Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band)」の最後に収録された同名タイトルから。

いきなりビートルズ(The Beatles)という世界一有名なバンドの曲を持ってきたわけで、「サブタイトルは洋楽のタイトルで行くぜ」という意図を読者側に伝える意図を感じる。

サージェント・ペパーズ~は史上初のコンセプトアルバムとされる記念碑的作品であると同時に「架空のバンドの作品(という設定)」とされていることも興味深い。「アイドルマスターという架空のアイドルを扱う作品に付けた」とするべきか、それとも「八雲なみになろうとする七草にちかに付けた」とするべきか。

2nd page : sugarcube

ヨ・ラ・テンゴ(Yo La Tengo)の同名曲からで、アルバムの「I Can Hear the Heart Beating as One」に収録されている。

Whatever you want from me
Whatever you want I'll do
Try to squeeze a drop of blood
From a sugarcube

タイトルと歌詞に登場するsugarcubeという単語と周辺のフレーズは「get blood from a stone」という英語の慣用句に由来している。「You can't get blood from a stone」で「無い袖は振れない」という意味だ(参考:英辞郎 on the WEB:「get blood from a stone」)。

石から血が採れないように角砂糖からも血は採れない、というわけだが、stoneではなくsugarcubeなのは後半の歌詞にも掛かっている。

And though I like to act the part of being tough
I crumble like a sugarcube for you

タフ(TOUGH)な男でいるフリをしたいけど、角砂糖の様に崩れ去っていくんだ……という歌詞っす。冬優子ちゃん、これ意味分かんないっす。忌憚のない意見ってやつっす。

3rd page : Little sister, the sky is falling…

3話目にして少し変化球。曲のタイトルではなく、パティ・スミス(Patti Smith)の『Kimberly』の歌詞から。キンバリーはパティ・スミスの妹の名前なのだが、これだと意味分かんないもんな。キンバリーは大崎姉妹と違って13歳も年が離れた妹で、歌詞は主に彼女が産まれた時のことを歌っている。姉が妹にというより母親が娘に語りかけるような印象の歌詞である。

Sponsored Link

Little sister, the sky is falling, I don't mind, I don't mind
Little sister, the fates are calling on you

『the sky is falling』は「破滅が近づいている」とか「もう終わりだ」という意味合いの慣用句。要約すると「ひぃん!……な、なーちゃん助けて……」みたいな感じか。原作やると実際の甜花ちゃんはイメージよりかなり「お姉ちゃんしてる」わけですが……。

4th page : All is full of love.

ビョーク(Björk)の同名曲から。歌詞の主旨は「あなたの周りはあなたが気付いていないだけで、愛で満たされている」という感じの内容。4話目は色々な意味でシャニマス本編に近いテーマを扱っている(やっぱりストレイライトを書くと「己と向き合う」要素が入るんだろうか)のだが、終盤のはづきに対する回答がこのタイトルなら救われていると考えるべきだろうか。

自分ならシュレッダーで分断された文字をもう一度繋ぎ直すあたりで、ウィリアム・バロウズ(※1)とか、『スティーリー・ダン(Steely Dan)』(※2)とかを連想するかなぁ……。えっ?そういうコメント要らない?

※1:「既に出来上がった文章の切り貼りで新しい文章を作る」カットアップという特殊な手法で作品を作る作家。音楽方面にも影響を与えた。
※2:サンプリングや切り貼りの編集が執拗というか冷酷(ベテラン演奏家に1フレーズだけ何度も演奏させて、気に入った1回だけ採用したのをツギハギしたりする)なことで知られるバンド。なおバンド名はバロウズの作品から取られている。

ビョークはミュージカル映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク(Dancer in the Dark)』で主演を演じているのだが、この映画が欝映画の代名詞になるくらい強烈だったせいで凄惨な目に遭う主人公セルマのイメージが未だにあるんだよな。現実では超大スターなんだけど。

5th page : Something for the weekend.

ザ・ディヴァイン・コメディ(The Divine Comedy)の同名曲から。なんかタイトル的に「なんてことのない、いつもの週末」みたいなイメージがあるが、実際の内容は「主人公の男が狙っていた女に家に誘われ、「薪小屋で変な音がするから見てきて」と言われたので覗いたら気絶させられ、気がついたら金も車も盗まれていた」というもの。全然日常じゃなかった。一見日常的に見えて監禁(?)という非日常に巻き込まれるエピソードのタイトルとしてつけた感じかな。

放クラにはづきさんが光の監禁された後、今度は妹の方がシャニPを闇の監禁……という衝撃の構成のエピソードであり、ここで裏主人公として七草にちかが顔見せをして単行本1巻が終了する。とんでもねぇ漫画だな……。

5.5th page : Canned Heat

ジャミロクワイ(Jamiroquai)の同名曲から。一応『キャンド・ヒート(Canned heat)』ってバンドも存在するんだけど、曲名縛りだろうから多分こっち。どちらにせよ、本エピソードで断片的に示される「にちかが内包したアイドルへの憧憬と切実さ」を見事に示した引用だ。

ジャミロクワイは実質的にジェイ・ケイのソロユニットで、バンド名は音楽用語のジャム(Jam)とアメリカ先住民のイロコイ部族(Iroquois)を組み合わせたものなのだが、イロコイのスペルをミスってjamiroquaiになったというしょうもないエピソードがある。加えてネイティブアメリカンの格好をしながら環境の危機を訴える(なにせ1stアルバムのタイトルが『Emergency of the Planet Earth』だ)スタイルにもかかわらず、ジェイ・ケイ本人は環境に悪いスーパーカーが大好き、という人間の業を感じる振る舞いで色々言われていた人物でもある。

なんかしょうもないエピソードばっかり書いてしまったが、アシッドジャズ(Acid Jazz)を牽引する、90年代を代表するバンドであるのは間違いない。なにせ3rdアルバム『トラベリング・ウィズアウト・ムービング(Travelling Without Moving)』(冒頭の代表曲『ヴァーチャル・インサニティ(Virtual Insanity)』が有名)が全世界で800万枚以上を売り上げて「世界でもっとも売れたファンクアルバム」としてギネスに登録されたのだから。……でも、やっぱりちょっと言いたくなるよなあ?

6th page : The Kids Are Alright.

ザ・フー(The Who)のデビューアルバム『マイ・ジェネレイション(My Generation)』収録の同名曲から。バンドや本アルバムとともにモッズ(※)のアンセムとして知られ、1979年に公開されたザ・フーのドキュメンタリー映画のタイトルとしても使われている。

(※)モッズ(Mods)はModernistに由来する単語で、1950~60年代のイギリスの若い労働者階級に流行した音楽やライフスタイル、およびその支持者を指す言葉。

ビョーク、ディヴァイン・コメディ、ジャミロクワイと割と新しめ(ロック界においては90年代は「新しめ」なのである……)なのが続いたな、と思ったら白人ロック第1世代みたいな時代に逆戻り。

要約すると「ここから出ていかなきゃ。あの娘はアイツらに任せよう。大丈夫、アイツらは良い奴さ(= The Kids Are Alright)」というような歌詞なのだが、妹と距離を置くこととなったはづきの心境と重なるところがあるだろうか?

本エピソードで「(この時点で)283プロでWINGを優勝したユニットは居ない」ことが明言される。アニメ版で初期4ユニットが優勝していないのでほぼ分かっていたことではあったから驚きはないが、「WINGを優勝しないとアイドルを続けられない」というにちかの課せられた条件の解像度上がるんだよな。ここで原作で摩美々がWING優勝逃したときのエピソードを拾ってくるのだが、この作品は原作のこういう要素の取り上げ方がべらぼうに上手い。

7th Page:Anthems for a Sixteen Year-Old Girl

タイトル見て「よくこんなドンピシャなタイトル見つけたな!」と思ったのだが、実は元ネタでは「Seventeen」のところを、にちかに合わせて「Sixteen」にしている。元ネタはカナダのバンド、ブロークン・ソーシャル・シーン(Broken Social Scene)のAnthems for a Seventeen Year-Old Girlから。

歌詞なのだが、同じフレーズを何回も何回も繰り返す(なにせ最大15回位繰り返したりする)ので、その限られたフレーズからの解釈にはバラツキが出る曲である。なんか曲名だけ見て「パパとママは反対するけれど、これがアタシたちティーンのロックだ!」系の曲かと思ったのに全然違った。なんかもっと遠くから見ている歌詞だよね。

「八雲なみ」がsixteen year-old girlであるにちかにとってのAnthemであることを描写した上で、その八雲なみを通じて物語の視点は過去へ。そしてここでなんとアイドルマスターシャイニーカラーズ、リリースから約6年余りを経て、天井努の初の顔出しである。マジで変な声出てしまった。

終わりに

原作の方に比べて新しめの楽曲の採用が多いという印象である。元々ロックというジャンル自体が衝動であるとか性欲であるとか暴力的なものを表現に昇華している部分があり、かつての洋楽ロックを元ネタにするのは、シャニマスのイメージとはそぐわないところもあるなぁという感想もあった(ので、余計に「ライターの趣味由来でやってるよなぁ」と思ったわけだ)。こちらは女性ボーカルの曲を採用したりして、本編イメージに近づいている感がある。おかげで調べるの結構大変だ。ビートルズとかザ・フーなんかは結構スラスラ書けるんだけどなぁ。

Sponsored Link

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です