誰が科学を殺すのか 科学技術立国「崩壊」の衝撃 – 毎日新聞取材班

2019年発行。主に日本政府の科学政策の失敗が大学や研究に悪影響を及ぼして悲惨な状態にあることをまとめ上げた功績で、2020年度の『科学ジャーナリスト賞』を受賞している。

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作品紹介

「『選択と集中』、そして『効率』を求める政策が研究力を低下させ、大学を破壊する。日本の学術に輝きを取り戻す必読の書」――山極寿一・京都大学長

「平成・失われた30年」をもたらした「科学研究力の失墜」はなぜ起こったのか?「選択と集中」という名の「新自由主義的政策」および「政治による介入」の真実、および疲弊した研究現場の実態、毎日新聞科学環境部が渾身のスクープ!

かつて日本は「ものづくり」で高度経済成長を成し遂げ、米国に次ぐ世界第二の経済大国になった。しかし「ライジング・サン」「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われたころの輝きはもはやない。日本メーカーが力を失い、経済が傾くのと並行して、大学などの研究も衰退している。政府による近年のさまざまな「改革」の結果、研究現場は疲弊し、大学間の格差も広がった。どうしてこんなことになってしまったのか。それなのになぜ政府はまずます研究現場への締め付けを強めようとしているのか。そうした問題意識から、われわれの取材は始まった。(本文より) - 毎日新聞出版

前置き

発表時に話題になっていてウィッシュリストに入れたまんまだった書籍。もう5年も経過しているし当時でも「既にある程度知られていたことを取材を通してまとめ上げた」という評価だったと思うので、特別新しい知見があるというわけではない。それでもぼんやりとは聞いていたことを明確にするという意味では読んで良かったという気がする。

ここ最近ウィッシュリストに入れたり積ん読状態だった書籍を消化しているのだが、せっかくだからと似たようなテーマの「Science Fictions あなたが知らない科学の真実」(記事)と一緒に読み進めていったのだが、2作合わせると余計に気の滅入る話である。あちらが学会側・研究者側のマズさを指摘する内容なら、こちらは大学・研究に影響する政治のマズさを指摘する内容といったところか。どっちもどっちと言いたいわけでは無いが、どちらにも救いの無い実情がある。

感想

日本の科学界に政治が及ぼしている悪影響の話は色々と耳にしていたが、こうやってまとめ上げられると本当に絶望的だ。ネット上での本書の感想を見ていったときに「新自由主義の悪いところばかり再現してしまった」という主旨の指摘を見たが私も同感である。出口思考の投資って全然結果を出さないのにやろうとする人間が後を絶たない。

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こういう結果が出た時点で修正していってほしいんだけど、あとがきに書かれた

悪い結果が出ているにもかかわらず、方針を改めようとしないばかりか、さらにアクセルを踏もうとする根本的な要因は、科学技術政策が政治イシューになっていないことにあると思う。(中略)「カネにも票にもならない」(第三章での尾身幸次・元科学技術担当相の発言)科学技術分野に関心を持つ国会議員は少なく、与野党間でも大きな議論にならないとなれば、幅をきかすのは官僚の論理だけとなる。官僚は基本的に間違いを認めない。「行政の無謬性」というやつである。必然的に、過去の政策の検証も十分に行われないまま、いったん決めた方針が踏襲されることになる。(p267)

この部分がもう救いようが無いなって感じる。科学から外れた政治の話に踏み込んでしまうんだけれど、科学には成果が求められるのに、成果を求めた張本人のこいつらには結果を理由に排除できないのってなんでなんだろうね?

税金を投じている人間としては全体が底上げされるように使ってほしいなぁ。特定の誰かが利益を得るのではなくそれでもコストを掛けなければならないことこそが「公」の領域だと思うから。

終わりに

こんな状態になっているアカデミック分野、才能のある人は……というか才能のある人ほど選ばないんじゃ無いかと思えて憂鬱である。日本は「優秀な人材が医者になってしまう」ことが問題とどこかで聞いたことがあるが、自身の興味を優先させる人でなければこの道を歩まなそうだ。この問題を起こしている政治家・官僚も似たようなもので、そうすると才能のある人はどこで何をするべき何だろうね?

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