1996年放映。悪名高いスターチャイルド大月Pからすれば(少なくとも当初は)「エヴァに乗り遅れたオタクのためのライトな入口」として目論んだ作品らしいのだが、どんな化学反応によるものか他には無い強烈な個性を持つ作品として産まれた。
オタク作品であるということに自覚的で、自虐的で、批評的で、自己言及性に溢れた尖った作品であり、90年代のオタク文化を語るには避けては通れない作品である。
Sponsored Link
なお劇場版の感想はこちら。
作品紹介
はじまりは・・・火星。突如、木星蜥蜴(もくせいとかげ)と呼ばれる謎の敵がユートピアコロニーを襲った。その戦闘力は圧倒的で、火星、月の裏側を次々に制圧してゆく。そんな時、地球の平和を守るべく(!?)民間企業ネルガルは、実験戦艦 ND-001 ナデシコの建造を終了していた。
ナデシコには技術的優位に立つ木星蜥蜴に唯一対抗できる兵器、ディストーションフィールドとグラビティブラストを装備していた。だが、そこに集うクルーたちは、各方面からスカウトされた能力が一流なら性格は問わないという、一癖も二癖もある人物ばかり。
そんなナデシコの艦長は火星出身のミスマル・ユリカ。そして、出港間際のナデシコに、今一人、火星生まれの青年、テンカワ・アキトが偶然乗り込む。二人は幼馴染であった。アキトは、コック見習いとして採用されたが、突然の敵襲により、機動兵器エステバリスのパイロットとして敵と戦うことになってしまった!! - 公式サイト
前置き
リアルタイムで一度視聴済み。ではあるもののうろ覚えであり、オタクである以上、必ずどこかで一度再履修しなければならないと以前から考えていた作品である。
サブスクリプションサービスで関連楽曲が配信される記念として、2023年12月中にYouTubeで期間限定公開されることになった(※)。これに伴ってX(旧Twitter)で関係者たちの思い出話も相まって話題となっていたので、もはや今見るしか無い!というわけで視聴した。
(※)AV Watch - 「機動戦艦ナデシコ」アニメ全26話をYouTube公開。シリーズ主題歌のサブスク解禁
みんなぁ💓
時を超えて
サブスクにて
こちらも配信開始されました💓💓ぜひ、あの頃を思い出しながら
初めてな方は新鮮な気持ちで✨たくさんの方に聴いてもらえたら嬉しいです♡
まだ歌ってまぁすw松澤由実♡(松澤由美)
ライブでも毎回歌うことも多いです。
ライブも待ってるぅ♡😊💕💕 https://t.co/bPuK76CtDY— 松澤由実⭐︎4月13日お誕生日ライブ中目黒FJ’s決定 (@yumimania) December 6, 2023
海外版のタイトル「Mobile Battleship Nadesico」じゃなくて、「Martian Successor Nadesico」なのね……(Martian Successorは火星の後継者の意)。よく見るとOPで出てくるタイトルの左下にモロ書いてあるわけですが。
誰かが躁鬱のようなアニメと言っていたがかなり本質的な指摘に思える。強烈なストーリーをかなりアクの強いキャラクターでごまかしている作品なので、感想を聞いているとキャラクターだけ見ていた人とそうでない人の温度差があるな、と思う。
各話の感想
5話目で色んな宗教に合わせて葬式する回、本作を象徴する内容の一つである。完全にコメディ調で描かれているがこの部分にクローズアップするのもセンスだよな。個人的な葬式希望者はこんなにいます!って出るけどこの人達全員死んでるんだよな。人死にの描写をとにかく薄味にする悪趣味さも見え隠れする。なんかこの辛さをユリカのアキトNTRの方に寄せてギャグにしちゃうのが。
6話目でバリア張って助けに来たはずの火星の民殺したの凄い。ユリカに自分で殺す選択させるのいいなぁ。潰された人の描写抜いてるから、これぼーっと見てる人は今相当な数の人間が死んでるの分かんないよね。で陰惨なエピソードの次の7話で「なぜなにナデシコ」第1回が始まると。本当に悪辣なアニメだ……。
10話目があかほりさとる回なのだが、劇場版でクローズアップされるクリムゾングループの名前がTV版ではここでしか出てこないのに、よりによってあかほり回というある意味ナデシコを象徴する回。アクア役が水谷優子で「うわぁ~、あかほり脚本でゲストヒロインがケロリンだぁ~」ってなったが、水谷氏は今や故人なのでしんみりしてしまった。私はなんでこんな気持ちになっているんだろう。爆れつハンターがあかほりさとる原作、ショコラがケロリン、キャラデザ後藤圭二なんだよな。ティラ役の林原めぐみは本作ではメグ…………ヒサゴン役だったね!
12話、エステバリスの出したミサイルがことごとく友軍に向かって行ってそれがオモイカネのせいだったわけなのだが、なんでエステバリスのミサイル制御をオモイカネがやってるのか気になる。バッテリー共有離れた場所でもエステバリスはミサイル撃ってるような?
13話目、アキトの代わりに入ってきたCV矢島晶子の代替パイロット(イツキ・カザマ)の顛末、ナデシコらしい嫌らしさだなぁ。描写ゼロという……。ま、ここで潰れるような描写を描かなかったからセガサターンのゲームで「実は生きてました」ができたそうなのだが。一貫して嫌な女として書かれていたメグミがいいキャラになって驚き。ミナトさんは、うん……。
17話、例の回(このアニメ例の回ばっかりな気がするが)。ガンダムXの脚本を務めていた川崎ヒロユキが、ガンダムXをエステバX、ガンダムX監督の高松信司(※)をムネタケ、本人をウリバタケのモデルとして書いた話である。高松信司はガンダムWの監督(池田成)が雲隠れしたせいで既にゴルドランで忙しいのに代行監督することになって、更にその次のガンダムXはもっと酷い製作環境のあげく打ち切りになってその責任やらなんやらを一身に浴び、その後『銀盤カレイドスコープ』では複数の異常事態に見舞われてとうとう自分を「アラン・スミシー」としてクレジットするという前代未聞の珍事になったり、なんかこういう人なんだよな……。
この回はウリバタケがヒカルにフラれる回でもあるわけだが見たくないなこういうの……。いやまぁ、ウリバタケが妻子持ちでそもそも不倫なんだから、そもそも話にならないんだけどさ。
「視聴者に嫌われる嫌な奴」として出てくるムネタケも、もう自分もいい歳なのでしっかり刺さる。ガイが幻覚として出てくる罪悪感の描写のエグさよ。「エステバリス乗るにはIFS打たないといけないんだけど、IFS打つと初期は幻覚を見る副作用がある」っていう設定で、奇跡のウルトラCキメやがって……。この後、ウリピーが結構大事な事言って締めようってのにユリカのフィギュアネタでギャグで終わるという、この温度差酷すぎる。風邪通り越して視聴者もムネタケになっちまうぞ。
18話、星野ルリ3部作の3つ目。木星蜥蜴の正体が分かって戦争がどうなるのか!と言うときにルリルリのエピソードで丸々使ってしまうのであった。まぁ擁護すると「前後のストーリーに関連せず単独でどこでも入れられるように用意しておいたエピソード」なんだろう。指摘されて気付いたが、この時のルリは12か13歳なのでいくらなんでも建物が古くなりすぎだよな。
19話、18話に続いて敵の正体が分かって(以下略)って時にやる内容じゃないぞ。一番星コンテストでルリが負けヒロイン丸出しソングを歌うわけだが、既にオタクの一番星になっていたルリのソロ曲とあって番組終了後にキングレコードに問い合わせが殺到し、キングレコードの電話回線がパンクしたという「例の回」である。やっぱりこのアニメ「例の回」多くないか?
ある意味屈指のアホ回みたいな話だがアイドル回だけに明らかに作画に力が入っている一方で「木製蜥蜴は戦うだけの冷たい奴ら」って発言が出た後で大日本帝国丸出しの奴らが回天(要は人間魚雷のことです)に乗ってきたりさぁ……。風邪引くって言ってんでしょうが!
20話、本作のSF設定を担当した堺三保が初めて脚本を担当した回である。前回と前々回はいったい何だったのかと言いたくなるほどのガチSFバトル回、というか機動戦艦ナデシコという作品が普段はキャラクターにスポットを当てていることが良くわかるエピソードである。面白いのだがもう20話目なのに「ナデシコからこの出汁が取れるの?」と困惑してしまう。
21話、記憶マージャン回。まぁテクニカルだよこの回。エヴァだと電車で、ナデシコだとマージャン。まぁ絵面はどう見てもドンジャラなんですが……。「子供の頃に草原を走っていた時は走る理由なんて考えてもいなかった。自分が今戦う理由を考えているのは本当は戦いたくないからなんだ」とアキトが気付く回なんだけど、そこに繋げる手法がボソンジャンプ過ぎない?全員の過去を繋いだせいで重要な情報ポロッポロ出てきて、ラストに「あれっ?なんでアイちゃんが?」いいよね。
Sponsored Link
この回は相転移砲が登場する回なのだが、回天(19話)→ボソン砲、ディストーションブロック、フィールドランサー(20話)→相転移砲(21話)とボソンジャンプが普通に出てきた後のインフレ酷いよな。
22話、23話。22話ラストで何と初の「つづく」である。そもそもこんな設定と展開の作品なのに、オムニバス形式で「今回の脚本は○○節だよ!」とかやってるのがそもそも衝撃的なんだけど(すげぇ今更な指摘ですが)。散っていったメンバーが再集結する話を1話でやっちゃうのが凄い。まぁ後3話しかないわけで時間かけてらんないわけですが。
24話、凄い。あと3話しかないんですよ。どうなってるんですかこれ。「木連がプロパガンダ用に編集したバージョン」見てこうなるのが酷いよね。めっちゃ不安がってるナデシコメンバーが集団ヒステリーになってしまうという描写だが、それを一見ギャグみたいにしちゃって、こんな表現あるかなぁ!?……で、こんな展開にして後半アレである。
悪ふざけが過ぎる割には設定しっかりしている感のある本作だが、追放状態なのに和平結ぼうとしているのはリアリティラインの面で珍しく「うん?」ってなる。全権大使じゃないから意味ないよな。全然関係無い話なのだが、九十九を襲った凶弾はスパロボだとGガンダムのドモンが受け止めて助かったりするらしいと聞いて爆笑してしまった。
26話、凄い。作中の問題が全然決着してない。まぁでも「アキトとユリカの物語」として締めさえすれば一応格好は付くのか。余談だけど同じ理論で「ベルセルクはゴッドハンド倒せなくても、ガッツとキャスカとグリフィスの物語を締めれば終われるよね!」って思ってた時期が自分にもありました(過去形)。本当に最後までドタバタで終わるのが凄いなぁ。ギャグの皮で包んで「どうです!明るいでしょう?」と装う悪い癖そのままに終わってしまった。
しかしこれ劇場版が無くて本当にここで終わってたら、フツーにエヴァよりキツいって!個人的な感想で言うのなら、エヴァは「不誠実さに呆れて無関心になれる」という感じなのだが、本作はなんかそうも行かないと思う。世間の反応は逆だったようですが……。
感想(雑感)
ユリカは当時の印象よりずっと優秀だったなぁ。イメージと裏腹に妙に生々しいドライさも感じる。6話で火星人を犠牲にしてでもクルーを守る選択を即時に取ったことをはじめとして、九十九は捕虜のミナトとメグミを巻き込んでボソンジャンプはしないって判断したり、潜水艦戦する20話だったり、中盤以降の相手が人間だと分かった後での腹の割り切り方が特に凄い。6話での判断でスッと判断させるの好きなんだよな、これ他のアニメのヒロインだったら、する・しないで1話とか全然使うぞ。
ユリカは「アキトは私が好き!」とは言いまくるが、最終回のラストのラストになるまで「私はアキトが好き!」とは言わないということになっているのだが、スタッフに共有が出来ていなかったのか、かなり序盤(2話か3話当たり)で普通に言っちゃってるんだよな(独り言でアキトが聞いてるわけではないけど)。他にもルリの「あたしも結構バカよね」がめっちゃ序盤に出てくるとか(最終回で言うやつでしょこれ)。
今観るとアカツキに色々思うところある。単純に良い奴では無いんだけど(普通に悪いこともしてる)、簡単に割り切れないというか。劇中であんなことになっちゃったムネタケがあるだけ余計に、自分の置かれた状況を清濁併せ呑んで頑張ってるだろ。記憶の印象よりも100倍ナデシコに味方してたり、記憶麻雀で素性がバレた後もメンバーの態度変わらなかったの内心喜んでそうなところとかも良い。今出たほうが当時よりもっとファンが付いたキャラだろうな。
プロスさんは当時見ても良かったけど今見てもめっちゃいいなぁ。こういうキャラ嫌いな奴いるぅ?とすら思うキャラだけど。プロスさんかマスターキートンみたいな大人になりたい人生でした。もし成れていたら年末に機動戦艦ナデシコを観ることはなかったでしょうなぁ!
スタッフの思い出話
ナデシコのスタッフがTwitterで当時の思い出話をしているので備忘録がてらいくつか取り上げる。まずサトタツこと監督の佐藤竜雄から。
確かアイちゃん=イネスさんというアイデアが生まれたのはアフレコ後の飲み屋、大久保のぶらいあんだったような。かなり切羽詰まったスケジュールで構成をしていましたね。 https://t.co/rRzv5mf68j
— 佐藤竜雄 (@seitenhyohyo) December 6, 2023
確か6話辺りの収録後の飲みで13話でゲキガンソングが敵ロボットのコクピットで流れてる、なんてアイデアが出てきたかと。いやホントに今ではあり得ないっす
— 佐藤竜雄 (@seitenhyohyo) December 6, 2023
一部訂正。アイちゃん=イネスさんというプランはは1話か2話辺りの収録後。6話辺りで木連のロボットをゲキ・ガンガー的な巨大ロボットにしようという流れで脚本に入ってもらった流れ。でないとスケジュール間に合わないよなあ、と言いながらかなりギリギリでしたが
— 佐藤竜雄 (@seitenhyohyo) December 13, 2023
いきなり衝撃のエピソード。イネスさんは7話目で「8歳位より前の記憶が無い」って発言しているのだが、この台詞収録時点で「この間決まりました」ぐらいのタイミングである。
一番上のツイートで会話をしている相手がSF設定担当の堺三保なのだが、思い出話の発端となった氏のブログ記事(元々はアニメスタイルに掲載したコラムの再掲)によると、こんな感じだったらしい。
會川さんが私を呼んだのは、確か96年6月のことでした。そのとき、メカやキャラの設定はともかく、シナリオは會川さんの書いた1,2話しか上がってなかったような。『ナデシコ』の放映開始が同年の10月ですから、アニメの製作スケジュールとしてはかなりヤバイ感じだったのはまちがいないです。 - ナデシコ漬けだった頃
劇場版ナディアの話聞いたときと同じレベルのタマヒュンである。
ナデシコ製作の信じがたいライブ感は、構成の會川昇の思い出話からもうかがい知れる。
別に酔っ払ってるわけではないんですが、配信で注目いただいている間に、Twitterでは控えていたナデシコ四方山話など。主にキャラクターの話。
放送五ヶ月前というタイミングで呼ばれた私の前には、既に麻宮さんによるキャラクターデザインがほぼほぼ揃っていました。ラフの人もいましたが— 會川 昇 (@nishi_ogi) December 12, 2023
上記のツイートから始まる連ツイは必見。凄いよ。ガイは3話で死ぬことが最初から決まっていたキャラだけど、物語上で死ぬことの意味や役割が決まっていなかったので頑張って後付けしたとか、他のキャラもそんな具合だったので荒川稔久に三人娘、首藤剛志にルリとウリバタケのキャラ付けをして貰ったとか書いてある。やっぱりルリって首藤剛志のキャラなんだね。
その首藤剛志は「12話の脚本でナデシコのメインコンピュータの名前として『思兼(オモイカネ)』を出したら、プロデューサーも監督も知らなかった」というエピソードをWEB上の記事で明かしている。
要するにやたらに凝って細かく設定や名前を作ったために、設定を作った人達の記憶から「オモイカネ」がどこかに消えてしまったのである。 - シナリオえーだば創作術
この12話のタイトルが「あの『忘れえぬ日々』」なの良いよね。忘れとるやないかい!
終わりに
死ぬまでにもう一回観ておかないとなぁと10年くらい思っていた作品を観れて良かった。と言いたいところだが、劇場版も有るので当然観ないといけない。よく知らないんスけど、アキトとユリカがラーメン屋の屋台引きながらラブラブハッピーしてるんスよね?楽しみだなァ!(瞳孔ガン開き)
関連記事
Sponsored Link