来年でデビュー二十周年になる作家、上遠野浩平はずっと共通する世界観で作品を作り続けてきたが、ここで突然『実は作中の合成人間はこの製造人間が作っていたんです』という衝撃的な設定が明らかになる。
なお珍しいことに、この単行本の発売を記念して早川書房からインタビューを受けた記事が公開されている(新作『製造人間は頭が固い』刊行記念 ~上遠野浩平インタビュー~)。いっつも自分のスタイルで貫いてしまいがちな上遠野浩平が普通に敬語で話している、なんか新鮮なやり取りである。
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人間を生物兵器「合成人間」に変化させる能力を持つ製造人間ウトセラ・ムビョウ。彼と少年コノハ・ヒノオが巻き込まれたとある監禁事件から、すべてが始まった。ムビョウと無能人間/双極人間/最強人間/交換人間の邂逅、そして奇妙な論理に導かれる意外な結末とは――〈ブギーポップ〉シリーズに連なる物語。 - ハヤカワ・オンライン
相変わらず「目次に『最強人間』って単語を見つけるだけで笑える読者」向け。SFマガジンに不定期連載されていていたようだが、既存の作品を読んだことのない人間にはチンプンカンプンこの上ない内容である。この作者の連載は単行本にまとめられていないものも多いのだが、一番最後に収録されている話が2017年4月号に載っているものなので、すぐに単行本化されたようでうれしい。
さて今回の主人公ウトセラ・ムビョウは今まで登場してきた合成人間たちは実はこいつが生み出してきた、という超重要な設定のキャラクターである。巻数が進むたびにショボさが際立つ統和機構であるが、実は合成人間は彼らの一歩進んだ科学ではなく、一人の人間(では正確にはないんだろうけど)の一点ものの才能によって作られていましたときたもんだ。
合成人間、というものの正確な定義などはない。それはあくまで便宜上の呼ばれ方で、そもそも具体的な記録さえどこにも記されていない。この世に〝いないことになっている〟存在なのだ。それは人体にある処置を施すことで、常人からかけ離れた特殊能力を持つようになった者たちのことだが、中には人工授精によって最初からそのように産まれるべく仕込まれた者も存在するらしい。
合成人間って結局なんだっけ?という感じに読者でもなるのだが、一応こういう設定らしい。MPLSの研究の末生まれた廉価版的な設定だったとなんとなく思っていたのだがそうでもないらしい。しかも終盤にはウトセラ当人の口から
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〝おまえが考えているような〈価値〉などないんだ。製造人間の能力とは、ほとんど錯覚で出来ているんだ。偽薬のようなものだ。効くと思っているから、効く──それがほとんどなんだよ。人間には秘められた能力があると信じたい、その当人の気持ちが特殊な能力を強引に覚醒させるんだ。少なくとも、僕はそう思っている〟
こういう発言が飛び出す。凄い設定来たなと思う一方で、『夜明けのブギーポップ』でスケアクロウが持ち出して凪と来生先生が服用することになった薬も多分これだった気がするんだけど、フィアグールはまだしも打たれたことにすら気付いていない凪に影響出たのはなんでやねんと思わないでも無い。
『ビートのディシプリン』を全部読んだはずなのに結局カーメンって何だったんだっけ?レベルの認識しかない私にはもうわけわかめである。人間そのものにそういう『可能性』があるのなら、書下ろしで戸惑いっぱなしのリスキィ先生がこれから見つけるであろう『奇蹟』とかにこれからこの辺が絡んでいくんだろうか。
ところで上遠野浩平作品は現代が舞台ならブギーポップと同一時間軸なのが多かったが、この巻の話は少なくとも十年以上前の話で驚いた。雨宮姉妹(リセットとリミット)の統和機構入りする前のエピソードがここで見られるとは。必然的に若く見えるフォルテッシモやリスキィも実は結構な年齢だってことになるが、いい歳こいた最強さんがマイローと一緒に戦える最強能力で勝手に人ん家のご飯のおかわりよそってたとか考えるとなんか悲しくなるな。
作中でこの先の話で絶対に何かがあることをかなり仄めかされているコノハ・ヒノオもブギーポップの時間軸では20代くらいだと思うのだが、今何やっているんだろう。ローバイが言った通りウトセラの後継者になってるのか?
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