NSAとCIAに所属した経歴からアメリカが世界中に対して行っていた情報監視の実態を知り、2013年にそれを公表して世界を震撼させたエドワード・スノーデンを主人公としたノンフィクション映画。監督は「プラトーン」「7月4日に生まれて」などで知られるオリバー・ストーン。
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「こっちはどうやって情報提供者かどうかを確認するんだ?」と私はローラに尋ねた。ふたりともスノーデンについては事実上、何も知らなかった。年齢も、人種も、見た目も、何も。 「ルービックキューブを持っているはずよ」と彼女は言った。 これを聞いて、私は実際に吹き出してしまった。自分の置かれている状況があまりに奇想天外で、現実離れしているように思えたのだ。まさにシュールで国際的なスリラー映画。その舞台が香港。
物語はスノーデンが情報の公開を求めて連絡を取った記者たちとの香港での接触から始まり、彼が滞在していたホテルのザ・ミラの一室で語られる半生と暴露の内容を回想としてたどっていく形をとる。
この時にやってきた一人が、この映画でもメインキャラクターとして登場するジャーナリストのグレン・グリーンウォルドで「暴露 (原題:No Place to Hide)」というタイトルで書籍を出版している。上記の引用は私が以前この本を読んだときにKindleでハイライトをとっていた部分で、映画が始まってすぐこのルービックキューブが出てくるので思わずニヤリとしてしまった。ただし、この映画の原作はこれだとばかり思っていたのだが、調べたら
こっちの方だったらしい。ノンフィクションだから内容はだいたい同じだとは思うが。
『暴露』のほうは読んでいたので基本的には出てくる情報は既知のものであった。それでも改めて非常に震撼させられる内容である。テロリストを探すためという理由付けで調査対象の関係者まで含めれば、あっというまに何百万人もの人間が対象となる事実と、それを口実に実際には何の関係もない人を監視していた実態。その情報が平和の為でなく、アメリカが他国に対して経済と社会で有利になるために利用されていた実情。国民にまったくの噓をついていた政府。
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とはいえそういう深刻なテーマを扱っていながら、スノーデンの半生を追うストーリー仕立てでしっかりエンターテイメントとして作られている。ネット上で会ったリンゼイ・ミルズと恋仲になるが、度重なる転勤でなんども破局の危機を迎える、なんてのは国家の陰謀とは当然直接の関係は無い。しかしそういうところから『ノートPCに付いているカメラは今自分たちのセックスの映像をNSAやCIAに届けているかもしれない』という身近な恐怖の描写に繋げているところなんかは上手い作りだ。
なおこの映画はドキュメンタリーではないのでフィクションの部分も存在する。スノーデンがCIAで会うコービン・オブライアンはジョージ・オーウェルの『1984年』のキャラクターをモチーフに作られた架空の人間である。
ノンフィクションで架空のキャラを目立たせることには意見もありそうだが、監視社会の恐怖を書いたこの小説がまさしく実現化したともいえる本事件への引用としてはこれ以上に相応しい作品もないだろう。
スノーデンがテレビ電話(実際にはスクリーンに映っているが)で大写しになったオブライアンと話すシーンは非常に印象的である。テレビ電話は相手が映るモニターと自分を映しているカメラの位置がずれていると、相手からは自分に目を合わせていない状態で映ることになるが、ストーン監督はこれを利用して『壁いっぱいに映し出されるオブライアンがスノーデンではなく映画を見ている私たちに話しかけているように錯覚する』ように演出しているように思われる。
なおドキュメンタリーとしては、グリーンウォルドとともに冒頭から登場するドキュメンタリー映画監督のローラ・ポイトラス自らが「シチズンフォー スノーデンの暴露 (CITIZENFOUR)」というタイトルで2014年に映画化し、アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を受賞している。
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