1980年代後半に確立された「文芸指向で大人向けの暗いバットマン」作品の代表的作品で、ヴィランに負けず劣らずのバットマンの狂気を描く。なお同タイトルのゲーム作品があるがそれとは別物。
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『アーカム・アサイラム』は、グラント・モリソンの衝撃的なストーリー展開とデイブ・マッキーンの病的とも言えるほど個性的なペイントアートで注目を集めたアメコミの名著です。一度は弊社より刊行した作品(2000年)ではありますが、現在は入手困難となったため、新しいアメコミ読者より復刊を望む声が多くあがり、皆さまの期待に応えるべく『アーカム・アサイラム 完全版』として復刊しました。さらに「完全版」の特典として旧版コミックに収録されていなかったスクリプトとラフスケッチを収録しています。これらを合わせ読むことで、ライターのグラント・モリソンが創造したアングラなストーリーをアーティストのデイブ・マッキーンがどのように破壊し、さらに病的とも言えるほど幻想的な世界観に昇華したのかが見てとれます。まさに「全バットマンファン」必携の一冊です! - Amazon
1986年はフランク・ミラーの『バットマン:ダークナイト・リターンズ』、アラン・ムーアの『ウォッチメン』という、アメコミ業界に強烈な影響を与えた伝説の作品が立て続けに発行されるという年であった。更に1988年に『バットマン:キリングジョーク』(記事)が発行されて文芸指向の大人向け作品の市場が確立されたうえで、1989年に発行されたのがこの『バットマン:アーカム・アサイラム』である。
巻末の解説によれば
国内外のセールスは、ハードカバーとソフトカバーを含め、50万部近くに及んでいる。コミック業界全体において、最高のセールスを上げたオリジナル・グラフィック・ノベルの座を維持している
ということだそうであるが、全ページどこを開いても狂気が伝わってくるこのサイコスリラー然とした作品が一番売れてたとかなかなか病んでるな。前どこかで「精神の病にかかった人に文章や絵を描かせると、余白を残すことに抵抗があるのか目一杯埋めつくす」というのを聞いたことがあるのだが、この作品も負けず劣らずコマ外に至るまでみっちり執念を感じるアートが詰まっていて正気の入り込む隙がどこにも無いなと思わずにいられない。そんな作品でも売れたのは、ティム・バートン版の映画『バットマン』が放映されたのと同じ年(1989年)に発行されたことが影響しているとは思うけれども。
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バットマンがジョーカーの呼びかけに答えてゴッサムの狂人たちを収容するアーカム・アサイラムに赴き彼らと対立、それと同時に20世紀前半に同建物を設立したアマデウス・アーカムの過去エピソードが並行して進む。ヴィラン達によって内面を暴かれるバットマンと妻子を失い狂っていくアマデウスがオーバーラップし、最後にはアーカム・アサイラムは狂人を外に出さない収監所ではなく狂人を「集める」為の場所であったというオチが待っている。
今現在となっては「バッツがヴィランとどっこいどっこいの狂人」というのはファンには当然の認識になっているので、正直そのへんはそれほど新鮮味があるわけでもない。実際『アーカム・アサイラム』の前に既にミラーが『キリングジョーク』でやってるしね。あっちがジョーカーの内面にフォーカスした話であるのに対して、こっちはバットマンの心の闇に肉薄する内容ってとこか。
最後にはジョーカーに、いつでも戻って来いよな的なことを言われて見送られるラスト。完全に同類扱いといった体であるが、精神治療で大人しかった状態から数字の2に固執する狂人に戻ったトゥーフェイスがイキイキしているのと対照的に、アーカム・アサイラムを後にするバットマンは陰鬱である。コウモリの本性を目の当たりにしたバットマンにとって、現世はジョーカーの発言通り「あのだだっ広い精神病院」に他ならない。
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