1998年放映。TVアニメ『機動戦艦ナデシコ(記事)』の続編となる劇場版である。オタクであることに対して自覚的であったり批評的であったりもするが表面上は明るかったTV版とはトーンが大分異なり、「無情さ」「やるせなさ」が強調される作風となった。ルリルリを見に行ったオタクたちがこんなにAKITO、AKITO言うようになるなんて……。
Sponsored Link
前置き
TV版はリアルタイムで視聴済みだが劇場版は未視聴のままここまで来てしまい、死ぬまでにいつかは観なければならないと思っていた。そんなところにTV版がYouTubeで無料放映されたことで話題となったので、TV版に続けて観た。劇場版は無料放映されていないのでdアニメストアで視聴。とうとう観るんだということで気合いも入り、視聴前から劇場版のパンフレットまで購入してしまった(特にプレミアとかもついておらず、Amazonで1000円+送料位で買える)。
サブタイトルのThe prince of darknessはスターチャイルドの要望で「黒い王子様3部作にしたい」とかなんとかの都合で付けられたらしい。残る2つは『少女革命ウテナ』と『アキハバラ電脳組』で、この3作をひとまとめにしたDVDボックス(!)も発売されている(↓のヤツ)。どうかしてたんじゃないかな、当時のスタチャ……。
上映時間なんと80分しか無い。作中で起きている事件の規模を考えると余計にあっという間に感じる。それもそのはずというか、当時のアニメ映画は同時上映のほうが普通で、角川関係作品は毎年『スレイヤーズ』と一緒に同時上映していたのでそんな尺は取れないのである。思い出も兼ねて調べたらこんな感じだった。
- 1995年:『スレイヤーズ(劇場版)』と『はじまりの冒険者たち 〜レジェンド・オブ・クリスタニア〜』
- 1996年:『スレイヤーズRETURN』と『X-エックス-』
- 1997年:『スレイヤーズぐれえと』と『天地無用!真夏のイヴ』
- 1998年:『スレイヤーズごぅじゃす』と『機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness-』
- 2001年:『スレイヤーズぷれみあむ』と『サクラ大戦 活動写真』『あずまんが大王』『Di Gi Charat 星の旅』
本当に全盛期だったんだなぁ。スレイヤーズの方は毎回ギャグ映画だったらしく、温度差で風邪引きそうな組み合わせもままあるな。ナデシコもそうだが天地無用に心が囚われたままの人も結構いそうだ。ちなみにヴァンゲリの旧劇が1997年。視聴者の情緒を殺しに来た2年だったんだな。
感想
TV版の感想で「作中の問題が何にも解決しないで終わった」と書いたが、劇場版が始まったら始まったで「最大の背景であった戦争はとっくに和平に終わっていて、敵だったサブロウタがチャラいミキシンキャラになって今は味方」という凄い極端な振れ方。
シリアス一辺倒になったという評価も聞くが、「根っこの部分の冷たさをギャグで誤魔化してた悪趣味なTV版に比べたら、誤魔化さなかった劇場版の方が誠実」まであると思う。悪辣な部分の胸糞さがダイレクトだよね。「アキトはどこへ行きたいの~!」とかさ。メタな部分で言うのなら、劇場版はTV版でシリーズ構成を務めた會川昇が降りてる作品なんだよな。
しかしまぁこんなに視聴後にテンカワ・アキトとブラックサレナのことばっかり考えるような作品になるとは、リアルタイムの視聴者も思っていなかったのではないだろうか。
Before:拙者、所詮はルリルリを見に来た萌え豚でござるのでwwwwwフォカヌポゥwwwww
Sponsored Link
After:「AKITO AKITO AKITO AKITO AKITO AKITO AKITO AKITO AKITO AKITO AKITO AKITO AKITO AKITO AKITO AKITO」「BLACKSALENA BLACKSALENA BLACKSALENA BLACKSALENA BLACKSALENA BLACKSALENA BLACKSALENA BLACKSALENA BLACKSALENA BLACKSALENA 」
みたいな人が山ほどいたので、心を囚われてしまったファン達は憑かれたようにAKITOとユリカを救出すべく逆行SSを書くようになってしまったのである。
作り手が「どうです?カッコいいでしょう!」みたいに作ってくれれば視聴者も冷められたものを、「ダサさ」に関して自覚的に作られたら逃れられないだろ。ルリが「それってかっこつけてます!」って真っ先に指摘するから作中で相対化もされるし、一見平静に見えるのにルリとの会話中で全身が光っているので感情が高ぶっていることがモロわかり。ユリカに顔を合わせられずに逃走。男の痩せ我慢こんなに見せられたら視聴者は平静で居られないだろ。
私は「女の為に自分のポリシーを捨ててしまう男」・「奪われた女の為に復習鬼になってしまう男」大好き侍なので、TV版であんなにユリカのことを迷惑がっていたアキトがこうなってしまったら抜けない刺さり方するのは仕方の無いことなのである。
ブラックサレナもホンマに最高すぎる。イメージだけならラスボスっぽいのに、実際は改造後のアキトに出来ないことをそぎ落としていった引き算の産物で、北辰衆に対抗する為に必要な装甲とブースターを尖らせていったゴリゴリにピーキーな機体。殺されないようにとにかく堅めた重装甲の中には初期機体。そのエステバリスが最後に涙を流すしさぁ……。これに何とも思わんかったらアンタ男やないで!(←誰に言ってるねん)。
アキトだけでなく、火星の後継者との戦いも全体的に無情だ。ナデシコCのハックが成立した時点で勝利なので、その後の北辰衆との戦いは戦略的には無意味だがアキトの執念を成就させるために残したとか、アキトがあんなに苦労したのに三人娘+サブロウタで戦うと楽勝とか、北辰が最後に一騎打ちに応じたのもゲキガンガーが文化となった木蓮の出身であることと無関係では無いであろうところとかさ。なんか作劇的に映える部分が本当に情緒でしかないというか。
戦略的な部分も、ナデシコCのワンパンでアッサリ勝利したように見えるが実のところアマテラスを落とした時点で趨勢は大分決まっていて、戦略上のアキトの役割は概ねそこで終わっているとかも映画だけの印象と異なる。これを踏まえるとチョイ役みたいに出てるアカツキがイネスさんも回収して実質的な勝利の貢献者なんだな。
終わりに
劇場公開時は佐藤竜雄が続編を予定していることを発言していたらしいのであるが、原因は不明であるものの叶わなくなり、そうこうしているうちにジーベックも解散となって絶望的となってしまった。
あのTV版の続きがこれで当時のファンの情緒はさぞ大変なことだっただろう。ある程度距離を置いた「1視聴者」でよかったという気持ちにすらなる。そりゃあ逆行SSも書くさ。……マシンチャイルド(小声)。
関連記事
Sponsored Link