ウィッチャー Ⅰ エルフの血脈 – アンドレイ・サプコフスキ

3作目の「ウィッチャー3 ワイルドハント」が大ヒットしたウィッチャーシリーズの原作小説。既に長編1巻目のみ「エルフの血脈 (魔法剣士ゲラルト)」というタイトルで翻訳されていたが、2巻以降が無くゲームが大ヒットした影響でプレミア状態になっていた状態だったものを、専門用語をゲーム版に準拠した上で長編全5巻が翻訳される運びとなった。

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人間、エルフ、ドワーフたち異種族が入り乱れるこの大陸で、北方諸国は南のニルフガード帝国の侵攻を受けた。激しい戦争がシントラ国の犠牲のすえ幕を閉じた二年後、魔法剣士(ウィッチャー)ゲラルトは、人里離れた砦でシントラ王家の血を引く少女シリに訓練を授けていた。だが短かった平和は終わりを迎え、シリの身に危険が迫る……。ゲーム化で世界中にさらなる話題を呼んだ、ポーランド発傑作ファンタジイ、開幕篇! - Hayakawa Online

2015年に発売され非常に高い評価を受けた「ウィッチャー」シリーズの原作小説で最初は↓だけ翻訳されていた。新装版はこの翻訳を基準に専門用語をゲーム版に準拠したものになっている。

ウィッチャー3のGOTY版をプレイ済み(記事)であるが、このゲーム、原作を知っていればわかるんだろうけど読んでないからまったく分からない……というシーンが山ほどある。気になっていたので読んでみた。

ようやくウィッチャーの話が一から読めるぞ!と期待して最初の1ページ目で「魔法剣士ゲラルトのこれまでの冒険」となってしまうのはいただけない。現時点で長編5冊、短編集3冊が出ているそうだが、長編第1巻となる本作の前に短篇集があるらしく6篇について簡単な概要が書かれている。シリの両親の話、イェネファーとの出会い、重要人物らしいネンネケの登場、この辺の話はこの長編で前提としてバンバン話が出てくるので、こっち先に出してほしかったな……。

エルフやドワーフというお馴染みの種族たちが現実でいうところの民族のような結束と排他性を持った集団になっており、彼らが住まう世界での戦争が軸のストーリーになる。シリはそういった状況が上手く呑み込めておらず、何が正しく何が間違っているのか、誰が味方で誰が敵であるのかを読者と同じく問う立場にあり、同時に典型的なイヤボーンヒロインとして各勢力に狙われる台風の目ともなるのである。こうして見ると凄い王道なファンタジー作品なんだな。ゲームをやってからこれを読むと勧善懲悪からは遠い倫理観が、自由な行動を許されるオープンワールドに上手く落とし込まれていること、作中の設定がしっかりゲーム中に採用されていることがよく分かる。なので、あのゲームの出来の良さを再確認することとなった。

長編5部作の内の1巻目なのでお話はモロ途中である。ゲームのウィッチャー3の冒頭の回想でも出てきた、ケィア・モルヘンで魔法剣士としての修行を受けるシリの話から始まり、その後は出自に関する秘められた才能の開花の為にメリテレ寺院でネンネケとイェネファーに預けられて育つところまで。すごいことにこの一巻だけでも作中で数年間の年月が過ぎている。

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以下は個人的に気になった部分の抜粋

あなたは事実を認めたくないのよ――あなた以外の誰もが知ってる事実を。あなたが霊薬や<草の試練>があなたの中の人間的な感情や気持ちを消せなかったという事実を認めたくないのよ!だから自分で消したのよ!あなた自身が! (p170)

トリスの発言。ゲーム中「普通に感情有りますよね?」って感じだったが、公式にこういう設定だったんだな。となるとヴェセミルやエスケルたちはどうなんだろうという感じだが、彼らも感情あるように見えるんだよな……。

それまで、エルフが退却するときは町をそのままにしておくのがつねだった。人間はエルフが残した基礎の上に建物を作ってきた。ノヴィグラド、オクセンフルト、ヴィジマ、トレトゴール、マリボル、シダリス……これらの町は、すべてそうやってできた。シントラもだ (p237)

人間は最後発でやってきた新参みたいな設定だが、こんな状態らしい。

だが、すでに噂は村や町に広まっている――ニルフガードに支配された土地の小作人や農民や職人が以前より楽で自由で豊かな生活を送り、商人ギルドはより多くの特権を与えられている――と……。われわれの王国内はニルフガードの工場でできた製品であふれ、ブルッゲとヴェルデンではニルフガード貨幣が地元経済を駆逐している。 (p327)

エイダーンのデマウェンド王から、ニルフガード帝国に攻め込まれている4王国の状況を端的に示す発言。

この辺の設定はゲームやってる時だと全然知らないでやってたので、2週目をやったらスルスル話も入ってくるんだろうな。

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