同和と銀行 -三菱東京UFJ“汚れ役”の黒い回顧録 – 森功

部落解放同盟飛鳥支部長であった小西邦彦と三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)の数十年に渡る関係を書いたノンフィクション。

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数週間前、餃子の王将を経営する王将フードサービスが、第三者委員会から反社会勢力との繋がりがあるという指摘を受けたことでニュースになった。その際に社会とヤクザの関わりを書いた本としておすすめされていたのを見て読んでみた。

飛鳥支部の小西と三菱東京UFJ銀行の蜜月の関係が明らかになり、その調査のさなかで小西の担当であった銀行側の担当が自殺するというショッキングなエピソードが起き、渦中の小西の人生を回想する形で話が始まる。著者の取材に答え、語り手となる岡野義市は三和銀行でかつて小西の担当を務めた人物である。

銀行との癒着が問題になって始まったこの話であるが、この回想を読んでいくと山口組系金田組の出身で同和団体に入り、時には大阪市から依頼を受けて揉め事を解決していた話などを読むと、どことどこが繋がっていたといちいち取り上げるのはナンセンスではないかというくらい密着していたことが分かる。

その後岡野の経歴の話から当時の三和銀行の状況と、岡野が担当になった時点で既に出来上がっていた大物顧客である小西への異様な対応の仕方が語られる。全編にわたって昭和という感じである。岡野が小西とまともに会話できるようになったが阪神タイガースの大勝の話題からだった、というエピソードでもそうだが人間対人間の関係が経済のすべてといった時代。

銀行なんてお金を扱っているところだからルールが厳しいだろうと思うわけだが、この大物に関するとそのルールが捻じ曲げられてしまう。冒頭で扱った通り、三和銀行の担当が飛鳥会に常駐していることが明らかになって問題になったわけだが、この辺を見るとこういう関係になるのもたいして不思議ではない。

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ここまで来るとなぜ小西はこれほどまでに大物扱いされるのか?という疑問が当然湧くがまとめると以下のようになるようだ。

  • 同和地域住民の生活改善を名目とした、同和対策事業特別措置法(同特法)が成立する。
  • この同特報を後押しに建設工事が次々に計画される。
  • このためゼネコンにとって同和団体に取り入る必要があった。
  • その同和団体の有力者となるのが小西だった。

という流れであるらしい。

暴力団員にいいように絞られてきた銀行の話なのだろうと予想して読んだが、中盤あたりに差し掛かるともうそういう印象は薄い。政治、経済さらには警察とまで関わっていて、彼の立場を頼ってトラブルを解決して貰っていた各業界も同じ穴のムジナといわれても仕方がないし、この問題が知ってる人は全員知ってる公然の秘密であったことは間違いない。実際本書の結びでも、小西が大物であったことは疑いようがないが、銀行側が金融に関しては素人だった彼を上手く利用していた部分もあることを指摘している。

それにしても人脈やコネというものが経済に与える影響を(このケースはあまりに極端ではあるものの)強く感じた一冊だった。昭和の時代であることも絡んでいるが、本質的な力は現代にも生き残っていることだろう。まぁ私はそういう方面に滅法弱い人間なので、仮に社会で出世してもこういうしがらみが待っていて地獄なんだよなぁ、と思わずにはいられなかった。

私が読んだのは廉価版となる文庫版で冒頭に「文庫版用まえがき」があるのだが、金融関係以外の人々からも意外なくらい意見を貰ったということが書かれている。それは金融以外の社会であっても、あてはめることが出来るものを感じた人が多かったからなのだろう。社会に生きている以上は、大小あれ対岸の火事ではないのだ。

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