20億の針(新訳版) – ハル・クレメント

「重力への挑戦(早川だと「重力の使命」)」などで有名なSF作家ハル・クレメントの長編デビュー作。

1950年作品で、帯の宣伝にもあるとおり漫画「寄生獣」や映画「ヒドゥン」の様な共生生命SFの原点となった作品である。新しく新訳版が出たので読んだ。

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あらすじ

宇宙人の乗る船が二隻、地球に不時着する。一方は彼らの世界での犯罪者、もう一方はそれを追う捜査官。両者ともに生物に寄生しなければ生きてゆくことの出来ないゼリー型の共生生物であった。

捜査官である”捕り手”は地上で会った少年ボブに寄生し、彼の協力を仰いで犯罪者”ホシ”を追う。ホシもまた人間に寄生しているはずであり、その対象となる可能性があるのは地球上の人類20億人。まさしく藁の中の針を探すようなものだった。

感想

このジャンルが成立した理由の一つにバディものとして書いていけるからというのがあると思うのだが、この作品でも行動的なボブと冷静な”捕り手”のコンビがまさにそういう形で書かれている。

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解説の牧眞司がクラシカルなハードSFと評しているが、次々に現れるタスクに科学的にアプローチして片づけていく感じで結構好きだ。宇宙人でも内容が理解できる物理学の授業から英語を学んだり、視神経に入る光を文字状に遮ってメッセージを眼球に投影したり、地味であんまり絵にならないけど科学的に堅実なタスクで面白い。

20億の針という邦題だが、実際には主人公の故郷となる百六十人程度の人口の島に限定して対象を探すことになるので、ちょっと大げさかもしれない。更に状況的に可能性が高かった主人公の友人たちを調べる話の為、実際には十人も容疑者がいない。そうでもしなきゃ一冊にまとまらないのでしょうがないが、多分今だったらビッグデータ云々とかして文字通り20億人の中から探す感じになるんだろう。

それでも犯人(寄生されてるだけなので本人は犯人でもなんでもないが)が実は……というオチが待っているのは、やっぱり原点でもこういうお約束な結末がついてたんだなぁと思ってしまう。

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