性転換や身体改造を頻繁に扱うSF作家ジョン・ヴァーリイの短編集。同作者を代表する八世界シリーズオンリーの短編集。
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同著者の作品は何冊か既読なので、作風に関しては既知なのだが、それでも新鮮な驚きをもって読むことが出来た。久しぶりの海外SFだが面白かった。
突如現われた謎の超越知性により、人類は地球から追放された。だが生き残った人々は、太陽系外縁で「へびつかい座ホットライン」と呼ばれる正体不明の通信ビームを発見。そこから引き出した科学技術情報を活用し、水星から冥王星に至る〈八世界〉に適応して、 新たな文明を築く……。性別変更や身体パーツの交換、記憶の移植やコピーに惑星環境の改変すら自由な未来、数百年にわたり変容してゆく人類を描く
八世界シリーズは冒頭にある上記の通りの遠未来の設定。最初の「ピクニック・オン・ニアサイド」から、我々の常識を覆すような価値観の描写の連続が続く。性転換するのが普通だし、体の一部をパーツとして日常的に交換するなど生物学・医学的な進歩が進んでいて、性や家族観のようなものも完全に変わってしまっている未来の話である。
そういった設定についていちいち解説せず、代わりに作中で出会った現代のキリスト教的な価値観を持ち続ける人物への主人公の独白でこの世界の常識が読者に伝わるように書かれている。読者からすれば現代的価値観を持っている人物は、主人公らにとってまさしく化石であった。
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八世界シリーズオンリー短編集の最初に掲載するのにふさわしい作品だなぁと思っていたら、実はこの短編集は「発表された順番に掲載されている」そうで、つまりこの作品はヴァーリイのデビュー作なのであった。全編新訳であることも加えて豪華な作りである。
性に関わる描写も非常に多いのだが、お話で出てくるのは生物学的な「セックス」であって社会的な「ジェンダー」では無いところはなかなか新鮮である。「自分の性別」による悩みというのは、性転換を簡単にできる社会では脱却が容易である為に大きな問題にならず、ストーリーが作りにくいのかもしれない。思えばSF作品でも性転換ものの話というのは意外と少ないんだよな……他にはジョージ・アレック・エフィンジャーの「ブーダイーンシリーズ」とか、ロバート・A・ハインラインの「悪徳なんかこわくない」ぐらいしか思い当たらない。
読み終わった後で確認したら、既読の短編集「ブルー・シャンペン」に「ピクニック・オン・ニアサイド」以外の短編6本が全部入っていたことに気付いた。読んだのがずいぶん前だったからか気が付かなかったなぁ……。今回の本が東京創元社で「ブルー・シャンペン」が早川書房だから、出版社的には被ってないのか。「ピクニック・オン・ニアサイド」と「カンザスの幽霊」は主人公が同じなので、「ブルー・シャンペン」は実はちょっと残念な収録だったんだな。
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