批評家から絶賛され、タイトルの「キャッチ=22 (Catch-22)」が不条理を表す代名詞となった有名作品である。実際ネット上で「キャッチ=22」で検索をかけると、書評よりも先に英語関係のサイトでこういう表現がありますと紹介されているページがヒットする。
1977年に早川書房から文庫で出ていたが長らく絶版状態であり、このたび新版として発売された。新「訳」でないのは惜しいところだが、昔から読みたかったけど機会を持たなかった私には贅沢は言っていられない。
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「そう、落とし穴がある」とダニーカ軍医は答えた。「キャッチ=22だ。戦闘任務を免れようと欲するものはすべて真の狂人にはあらず」
たったひとつだけ”落とし穴(キャッチ)”があり、それがキャッチ=22であった。それは、現実的にしてかつ目前の危険を知った上で自己の安全をはかるのは合理的な精神の働きである、と規定していた。(上巻 p86)
一言で説明するのなら戦争を題材にとった風刺小説である。第二次世界大戦の時代、イタリアのピアノーサ島に基地を置く米空軍部隊において空軍大尉を務めるヨッサリアン大尉が、不条理が産み出す熾烈な状況からあらゆる手段を用いて自らの命を守ろうとする。
表紙裏の文章だと、ことあるごとに上官がキャッチ=22を突きつけて主人公らを阻む……!みたいなイメージがあるが、実際にそういうシーンはほとんど無い。若干拍子抜けともいえるが、何をやるにしても脳裏をよぎることが人間を支配しているというのは、なかなかにリアルだと思う。痛烈なブラック・ユーモアをふんだんに込められて書かれたこの作品が単なる戦争小説にとどまらずこれだけ評価されたのは、読者が自らの属するあらゆる社会を想起出来る内容だったからなんだろう。
著者の意図通りの反応ではあるにせよ、読んでいてすごく混乱した。下巻末尾の解説、”『キャッチ=22』の時間構成について”で書かれている通り、大体20~30ページでまとまっている章の連続で構成される本作は実は各エピソードが時系列どおりに掲載されていない。一応出撃回数が前後するのでヒントはあるのだが怪訝になることしきりである。主人公ヨッサリアンの不条理にさらされて混乱するさま、そこから自我を確立していく流れと連動しているらしく、実際時系列がまっとうな状態になる後半に入ったあたりから(慣れもあるのだろうけど)格段に読みやすくなった。ヨッサリアンに影響を与えているスノードンの死のエピソードが最後から二番目に来て
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彼はスノードンが醜くよごれきった床の上一面にまき散らしたすさまじい秘密を絶望的な気持ちで見つめながら、全身に鳥肌が立つのを覚えた。彼の内臓のメッセージを読み取るのはたやすいことだった。人間は物質だ――それがスノードンの秘密だった。窓から放り出してみろ、人間は落ちる。火をつけてみろ、人間は焼ける。土に埋めてみろ、人間は腐る――他のあらゆる台所屑と同じように。精神が消えてなくなってしまえば、人間は台所屑だ。それがスノードンの秘密であった。精神の充実のみがすべてであった。 (下巻 p393)
ようやくこれが書かれるあたり色々考えて作られているんだろう。そしてヨッサリアンらと同様に不条理に晒されながらも、自分が生き残る道を(周りに馬鹿にされながらも)貫き通し続けて見事に達成したことが判明するオアが最後に凄い希望を与えてくれるのである。
それにしても、こういう実験的ともとれるような、読むハードルが高くなる構成を良く採用してもらえたものだ。ヘラ―はこれがデビュー作らしいのだが。
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